ロートラウトと風の恋

嘘敷き水晶

序章--------「継承者」

権力者の御住居というのは、人々を見渡せる丘の上や、森のてっぺんに建てられる。それは大抵の場合主に敵国や脅威に立ち向かうべくまさった先人たちの知恵の結晶だが、虐げられた民衆の目にはそうは映らぬ。上から目線だ優雅だと罵り、天に向かって唾を吐く。革命時は悪魔の旗印としてあらゆる恥辱の的となった。

お国の田舎、ワルト領の領主一家もまた小高い丘の上に城を建てた。いちから建てたわけではなく、職人たちに古い遺跡を住めるように整えさせた、というのが正しい。

領主は代々堅実で特に目立った評判のない、領主らしい領主だった。賄賂や汚職にも通じていたが、義務は果たす。その甲斐あって、街の人々はぶつくさ不満を垂れ流しながらも、老いて家族の手で看取られた。一方その領主一族はというと、常に上ばかり見ては社交界にやっきになった。


ロートラウトは跡取りだ。ほっそりして愛嬌に溢れた少女でもある。跡取りというのは男児がお決まりだ。では、なぜロートラウトにあてられたのか。簡単な話、合わせて11人の女児にしびれを切らした父親が、末娘からドレスを奪い取ってしまったのだ。


男装少女、ロートラウトは至って問題なく年を得た。剣術や競争心にはややかける節もあるが、叩き上げられた教養と持ち前の好奇心がそれを補った。ロートラウトは父の書斎を第二の居場所にし、学のあるインテリの元に進んで学びにいった。ほっそりした体つきは、武芸や食事や荒々しい様々なものによって、太く逞しく育った。男の真似なんぞして、あれは野蛮だ履き違えてるなどと罵られながらも、ロートラウトは苦虫を噛み潰しながらやり過ごした。


彼女の無秩序な様を嘆くのは、決まって大人だ。女が男の真似事をする。その真似事にしろ、男というものを履き違えている。ワルト領の贄豚。耳年増の勘違い。だがその言葉は、彼女の無秩序な立場が生んだものである。そして、そういう事は、領主と同等、またはそれ以上の地位からの遠回しな嫌味だったので、幼いロートラウトはその毒牙に気付きながらも、たち打つ術を持たなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る