眠り姫

 ネロと団長の相部屋で、相も変わらずネロは熟睡していた。時刻は午前11時。平日の昼間だというのに、この子は起きる気配すらしない。


「なんや、ネロの奴はまだ寝とるんか?ホンマに、起きへんなあいつ」


「『眠り姫』って言われてるくらいだもんね。明日の公演までに起きてもらえればいいんじゃない?」


 舞台で練習をしていたハンドとウィッチは、そんな会話をしている。


「そんな事言っても、あいつ最後に起きたのいつや?もう一週間くらい見とらんで?」


 得意のマジックを披露しながら、ハンドはネロの心配をしている。しかし、その表情は見る事が出来ない。見えるのは、宙に浮く白い手袋のみだ。


「前回の公演の時は起きてきたからね。それ以外はずっと寝てるんじゃない?」


 ウィッチはウィッチで、お気に入りの帽子を被り、“ともだち”のおもちゃを並べて行進をしている。


「やっぱ、流石に起こした方がええんちゃうか?」


「起こすって、まさか女子部屋に入るの?」


「心配すんな、なんやって、わいは透明人間やで?それに、入ったところでそなおもろいもんもないやろ」


「ちょっと、あんた達何馬鹿な事考えてるの?」


 突如ハンドとウィッチの背後から声を掛けたのは、いつものゆるめのパーカーを着た団長だった。


「うわぁ!!なんや、団長か・・・いきなり声掛けんといてくれや・・・ビックリするわ・・・」


「透明人間が何言ってるのよ。あんたの方がよっぽどビックリするわよ。そんな事より、あんた達ネロを起こそうとか言ってたけど、ネロの事はそっと寝かせてあげてよね」


「何で?てか、そもそもネロは何であんなに寝ていられるの?やっぱり、ネロも“特別”な何かを持ってるの?」


 ネロと歳の近いウィッチは何かとネロの心配をしている。ウィッチにしてみれば、身近にいる異性ということもあるのだろう。


「いや、ただ寝ぼすけなだけだけど・・・。とにかく、起こしたりしないでね」


 そこまで起こすなと言われると、心配というよりも理由が気になってくるのがこの二人の性である。


 それに気付いたのか、団長も観念したよう口を開く。


「あの子ね、寝付けないとぬいぐるみ投げてくるのよ。分かるでしょ?あの子が持ってるぬいぐるみなの。投げられるこっちの身も考えてよね・・・」


 団長のその言葉で二人は


「「あぁ・・・なるほど・・・」」


 サーカステントの一室。少女の穏やかな寝息が今日も聞こえる。


 


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