迷子

「おまえ、迷子か?」


「はぁ?」


 突然声を掛けてきたのは、小学校高学年くらいの短髪の少年。見るからに野球をやっていそうな風貌である。


「何、私に言ってるの?」


「それしかいないだろ。もしかして、自分が迷子かどうかも分からないのか?おいおい、しっかりしろよ・・・」


 やれやれと肩をすくめる少年。


「言っとくけど、私迷子じゃないわよ・・・」


「嘘つくなって、俺と同い年か一つ下だろ?そのくらいの年なら迷子にだってなる。別に恥ずかしがるこったない」


(また変な子供に絡まれちゃったよ・・・)


 少年が声掛けたのは、フェアリーサーカス団の団長だ。


 確かに今の団長はいつものぶかぶかのパーカーにジーパンと、子供っぽい服装の上、身長のせいもあり子供にしか見えない。


「迷子になったら迷子センターに行くんだ。ほら、行くぞ」


 テントの近くのスーパーに晩飯の食材を買いに来ていた団長だが、はるか年下の少年に迷子と勘違いされ、終いには腕をつかまれ迷子センターに連れていかれそうになっている。


「だーかーらー!私は迷子じゃないの!それに、あんたより年上なの!」


「頭でも打ったのか?」


「打ってない!」


 今まで何度もこういうことがあった団長だが、ここまで馬鹿にされたのは初めてだ。


「そんなに信用出来ないなら、これ!これでどう?!ここに私の生年月日が書いてあるでしょ!!」


 そう言って取り出したのは、保険証だ。流石に小学生であれば保険証の記載で分かると思ったのだろう。


「これ、母ちゃんの?」


「私のだよ!」


 駄目だよ母ちゃんの持ってきちゃ、みたいな顔で団長を見る少年。少年の気持ちも分からなくはない。なんせ、生年月日の欄には、『平成四年二月九日』と書かれているのだ。


 団長のあの見た目からは、想像もできない。


「嘘はいいから、早く迷子センター行くぞ。俺も用事あるんだから」


「お前が迷子なんじゃねぇか!!」




 その後迷子センターに言った二人は、無事保護されましたとさ。


「私は自分で帰ったけどな!」

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