第三話 メカニック 後編 ベンケイ視点

「いや、何で俺の話なんだよ「コータのお父さんはね!ソードの天空流の道場の道場主なんだよ!」おい無視すんな!」

「……そうなんだ、えーと、すごいね?」

あれ、ちょっと微妙な反応だぞ。

なんか間違えたかな。

「それよりさ、ベンケイ君、ご飯買ってこようよ。私お腹すいちゃって」

「あ、そうだった。ごめん。じゃいこっか。コータ、ちょっと待ってて」

「おうおう、はよいけい」



「ベンケイ君、どれにする?」

「今日のおすすめはJ地区のグリーンハウスで採れた野菜のサラダとカシワ養鶏場のからあげだね、これとご飯にするよ」

ヴェルダリア王国が地下に逃げた時、その土地と国民は、12の地区に分けられた。

王都のあるA地区を中心に並べられた11の正六角形の地区、それぞれは独立して地下へと改装の建設を進めていったため、地区間には距離があり、それらを繋ぐのはいくつかの通路しかない。

それぞれ地区によって役割があり、J地区やK地区では食物の生産がおもに行われている。

僕たちのいるG地区は兵士育成のための戦闘特区だ。

「じゃあ私もそれにしよっと」

「からあげ定食ね、730レンだよ」

「はい」

ピッと、右腕につけた赤い円筒形の腕輪をレジにある認証コードに読み取らせる。

少しして食堂のおばちゃんから出来立て定食が乗った膳を渡された。

定食の味噌汁が端っこに置いてあって、膳のサイズがあってないのか少しこぼれそうで不安になるな。

さて、コータのとこへ戻るか。

 


特に何事もなく食事は終了し午後の授業へ。

結構頑張ってコータとサクカさんに話降ったけどサクカさん収支不満げだったな……。

最後の方はちょっと拗ねてたし、やっぱ僕がいたからだろうか。

僕は鋭い方だとおもっていたけど、もしかして僕は空気読めない?まあわからないものはしょうがない。女子の心は複雑怪奇だって言うし。

さて、ここからは職業専門の授業だ。コータはソード、サクカさんはシールドの専科に行った。

ちょっと早くつきすぎたかな。

教室につくとまだ半分も生徒が来ていなかった。

比較的仲のいいメカニック男子がいたので軽く会釈して隣に座る。

軽い雑談をしていると先生が教壇の上にたった。

回りを見ると大体みんな来ている。

そろそろ始まるな。

カチッカチッカチッカチッ、リィィィンリィィィンリィィィィィン。

四回の刻音に三回のベル。

授業開始だ。


メカニックの仕事は主に戦闘ではなく補給と修理だ。

冒険者たちは大魔鉱石プラエクラーラから摘出した魔力によって身体能力を強化して戦っている。そうしなければ、完全に機械で作られた機構兵士の速度、硬度に歯が立たないからだ。

冒険者たちは右手につけた円筒形の燃料ポッドに魔力を補給し、ポッドの先端につけられたプラグから体に魔力を注ぎ込むことによって、体を強化することができる。

しかし、その可能保有量はあまり多くなく、数度の戦闘で、魔力切れを起こしてしまう。

敵軍にメインコンピュータを奪われた、つまり支配された階層ではプラエクラーラからの補給路は整っていない。

そのため、迷宮内では魔力を補給するためには同じく魔力で動いている機構兵士から奪うしかない。

だが、高度な技術で作られた機構兵士から上手く魔力を抜き出すのは至難の技である。

間違えれば、怪我をしかねない。

そのため、倒した敵を解体する専門の職業が必要だった。

機構兵士の解体、また、機械の調整のための仕事、それがメカニックである。

また、敵機構兵士の体をつくっている機械たちは地下に潜り資源に乏しい我が国では大歓迎な代物である。敵を倒し、その部品を剥ぎ取り売ることで冒険者たちは更なる収入を得ることができたりする。もちろん、自分達の強化にその素材を使っても問題はないが。

ここらへんはなんども聞いた部分だ。

この先生は毎回授業の始まりにこのメカニックの仕事の話をする。 

大事なことだとは思うが、何でこんなに繰り返すのだろう。耳にタコができるのも時間の問題だ。 

姉さんが行方不明になっていて焦っているのか、いつもより時間の無駄だと思い、イライラしてしまう。

まあ、僕に時間の余裕がどれ程あったとしてもなにもできないだろうけど……。

卑屈になっている自分に嫌気がさす。

いや、こんな思考続けてもいいことなんてない。むしろ気分が悪くなる、やめよう。

少し指をつねって前を向く。

今できることをするんだ。

現在確認されている機構兵士の種類構造、解体するために必要な知識。今日は主にそれのようだ。

蛇型のジャード、人型のアーミー、そして犬型のヘルハウンド。他にも多種多様、様々な機構兵士が作られている。

メカニックの仕事は一進一退、ひとつの機構兵士を解析しきったところに全く新しい機構兵士が投入されることもある。

そのため、メカニックは全職業の中でもっとも研究と鍛練を欠かしてはならないものと言われている。

そして、僕の流派はそんなメカニックの中でもさらに困難とされるものなのだが……。


「……ヘルハウンドの脆い部分は眼の位置につけられたサーチライトなのですが、その部品はとても貴重です。余裕があるときはなるべく傷付けないよう対処しましょう、それでは、」

そのタイミングでベルがなる。

「む、今日の授業はこれでおしまいです、皆さん、復習を欠かさないようにしましょう……」


よし、今日も帰ったら、父さんに稽古をつけてもらう予定だ。コータを探して早く帰ろう。

教室を出ると、コータが待っていた。


「よっす、お疲れさん」

「待ってたんだ、早かったね」

「今日は実戦訓練だったからな、いくつか組んで終わりだ」


そのまま、連れだって二人で帰る。

コータのうちは僕のうちの前を通ってその先にあるので僕のうちの前まで一緒に帰ることになる。

僕の家の前につくと、父さんが門前で立っていた。

なにやらいつもと雰囲気が違う。

いつものなよっとして優しい感じではなくどこかはりつめて悲しそうだ。

なにやら良からぬ不安を覚える。

なにか、あったんだろうか……。

「父さん?」

「ああ、帰ったかい。おや、コータ君もこんにちは」

「こんにちは、おじさん」

「すまないが、コータ君。ベンケイに話があってね、あまり……」

そこで父は少しためらったあともう一度口を開いた。

「いや、君にもいっておいた方がいいだろう」


「カナの、死亡が確定した」

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