第二話 メカニック 前編 ベンケイ視点
「コータ起きて、次移動教室だよ」
「ふわぁ……?あと五分……」
「あと五分で授業が始まっちゃうんだよ!!」
ペシン、とコータの白い頭を叩く。
「あー、眠い」
「コータ、次は教室別だろ?早く準備しないと知らないぞ」
「あっ、やべ次戦闘基本技術学じゃん!先生むっちゃ厳しいやつ!コータ、起こしてくれてさんきゅー!」
「……あー、行っちゃった。ほんと行動は素早いなあ」
荷物片手にさっと教室を出ていったコータを見て僕も自分の教科の用意をする。
「毎度毎度大変だね、ベンケイ君」
「あ、サクカさん。いいんだよ、コータだって怠けたくて怠けてる訳じゃないし」
とんとんと僕の型を叩いて話しかけてきたのは同じクラスの女子、サクカさん。
明るくて、どんな人とも仲良くなれそうな人だ。女子とあまり関わらない僕にも話しかけてくれる。
「そうなの?でもあんまり甘やかしたらコータ君のためにもならないよ?」
ちょっと首をかしげた黒髪のポニーテールが今日も可愛らしい。
「いやあ、流石に寝かせてあげないとかわいそう、ていうか、命に関わりそうだし」
「そんなレベルで!?」
「うん、まぁね。」
曖昧に僕が返したその時、僕らの耳に聞きなれた、けれど聞きたくなかった音が聞こえてきた。
カチッカチッカチッ、リィィィンリィィィンリィィィィィン。
三回の刻音に、三度のベル。
それこそは休息の終焉。
そして、始まりを告げる鐘。
そう___________
「「チャイムだあああああ!!」」
_____________僕たちは次の教室めがけ駆け出した。
「ホワイ!?ワッツハップン!?ワッツニュウ!?」
「オウ……、ノッスィングマッチ……」
防御心理学科の講師は僕の返答に満足したのか、空いてる席を指差すと黒板に向き直った。
「良かったぁ、あんまり厳しくない先生で……」
「注意した側が遅刻するなんて、ミイラ取りがミイラ化現象とはこの事か……」
僕とサクヤさんは先生に指示された席。右側の最後列に二人ならんで座った。
この授業は、主にシールド、メカニック、ウィザードの役職希望の生徒が受ける職業選択単位の一つで、戦闘中の防御に関する心構えやコツを教えてくれる。
僕たちの学校は、全員が共通で受ける冒険者として基本的に必要な必修科目を10単位、冒険者となったあとの役職について必要な選択科目を25単位以上とることで冒険者と希望する役職の資格をもらい卒業することができる。
一単位につき20時間の授業を受け、試験にて合格点をとらなければならず、テストが簡単で、先生の話が面白いこの授業は人気の授業である。
今日はシールドの人と後方の守られる人とがどのように連携をとるのかの授業のようだ。
「デはマズ、質問デス。戦闘中、シールドの人の仕事はナンですカ?」
一番後ろの席でよく見えるから、いくつか手が上がっているのを確認できた。
そして僕のとなりでも。
はいっ!って言葉が言ってないのに見えそうな位ピッと手を伸ばし目を輝かせているのは、僕のとなりに座ったサクカさん。
手を上げている人の中で唯一の女子だ。
彼女、シールドガチ勢だからな……。
「ハイ、サクカさん」
「仲間を守ることです!シールドは仲間みんなを無事に探索から帰還させる義務があって、そのために己のできることを全力て行う必要があります!これはシールドの祖とされる英雄ジュウベエの思想から始まった観念で「ハイ、アリガトウ、もうイイデス」えぇ……」
もっと言いたかったのになあといった様子ですごすごと席に座るサクカさん。
なんで、そんな好きな科目なのに遅刻したんだ……。
「ハイ、では戦闘中に守られるヒトの仕事ハ何ですカ?」
こちらの問いにもちらほらと手が上がる。
こちらは女子が多めだ。
「ベンケイ君は上げないの?」
「僕はほら、メカニックの中でも特殊な流派だから……」
ハイ、と前の方の女子が当てられた。
「立ち位置の意識、後方での連携です。私たちはシールドに守られながらもシールドに負担をかけすぎないように意識しなければなりません」
「ふム、悪くないデスね。シールドは守ることが仕事ですが、そのシールドが倒れてしまってハ本末転倒デス。後方の方々もシールドとイウ仲間をマモロウと意識スル必要がアリマス。それでハ?実際の戦闘中を想定した立ち位置を考えて貰いマス。二人ヒトクミヲ作ってください。なるべくシールドと後方で組めるとイイデス」
「敵が前にいるとすると、こっち側に攻撃が来るはずだから、こう、かな?」
敵を模した小さな風見鶏を二メートルほど先に置いて、その頭の向く方向と距離から守り方を考えていたサクカさん。
位置取りを決めたのか顔を捻り後方の僕に意見を聞く。
「うん、敵の頭の向いている方向の直線上に僕とサクカさんが入ってるから大丈夫だよ」
もちろん、実践ではこんな単純なものではなく盾の角度や姿勢が大きく関わってくるが、今は立ち位置の授業なので問題ない。
「でもさ、基本的なパーティーってソードとシールドの前衛二人にメカニックとウィザードの後衛二人だよね。この型だと後ろ二人は守りきれないんじゃないかなあ」
「確かに……。あ、それだけじゃない。シールドはソードとも戦局によっては連携をとらないといけないよね、それ全部をカバーするとなるとサクカさんこの位置だと結構きついんじゃ?」
「あー、そだね。……うーん……。あ!そだ!」
なにかに思い付いたのか、サクカさんはスタスタと風見鶏に向かって歩き出す。
「ここ!ここならどう?」
そう言って立ち止まったのは風見鶏の鼻先。
ほぼ数センチの隙間しかない。
「ここなら敵がどこに突進しようとしても盾にぶつかるよね」
「確かに……。複数の敵がいる戦闘じゃなければ有効な手だね」
それは思い付かなかった。守る仕事のシールドが敵の度真ん前にあえて攻めにいく、か常識にとらわれすぎてたかな。
「ハイ、コレデは授業ヲ終わりマス。シーユーネクスデー!」
先生の元気な声で授業は終わった。
サクカさんのだした考えはどうやら実践でも使われている戦術のひとつであり、有効ではあるが、それを実現させるには敵の攻撃を受ける力と敵の攻撃方向にいち早く対応する力が必要なため、難易度が高いものだそうだ。
それでもサクカさんは満足そうに絶対マスターしてやるんだから!と意気込んでいた。
「やー!楽しかった!ベンケイ君!次、お昼!一緒に食べようよ!」
サクカさん、ちょっと噛んだ。
「いつも一緒に食べてる子達はどうしたの?」
「いやー、みんな今日は他に予定あるんだって」
そう言って彼女は頭をかきながら目を少しそらす。
……?なんかちょっと焦ってる。
まあいいか。
「そっか、そういうことなら喜んで。コータも一緒だけどいいよね」
「え!?あ……そう、だよね。うん、知ってた知ってた」
うんうんとぎこちない笑顔を浮かべながら頷くサクカさん。
その少し変な様子にとまどいながらも僕らはコータといつも食べている学食へ向かった。
「おうベンケイ遅かったな」
席に座っていたコータはすでに食事をとっていた。
「コータが早いんだよ……」
「ははっ、まあな。お、サクカじゃん。珍しいな」
「あ、今日はお昼一緒させてもらうね、そゆことでよろしく」
「どんな風の吹き回しだ?」
「いつも一緒に食べてる子達が用事できちゃって、一人で食べるのもあれだし一緒に授業受けてたベンケイ君に相席頼んだの」
いってることは納得できるけどなんか早口だなあ。
ふと、視界の端に特徴的なピンク色の髪が写った。
あれって、サクカさんといつも食べてる娘じゃないか?
そっちの方をちらと見直すとはっきりわかる、他にも数人、いつもサクカさんと一緒にいる女子達がこちらからは見えにくい位置でご飯を食べている。
それになんかこっちを見てるような……?
まさかサクカさんだけ仲間はずれにしてるとか……?
いや、彼女たちの表情はそういったいじめとかを行っている人特有の悪い笑みではない。
笑顔は笑顔だが、あれはどっちかというと優しく見守っている母のような……。
そこまで考えて、僕は真実に行き着いた。
さっきの慌てよう、コータに対する早口、そして、サクカさんの友達の行動。
僕は鈍感じゃない、むしろ人の機微には気づきやすい質だ。
わかった、サクカさんはコータのことが好きなんだ!
通りで、さっき僕に話しかけてきたときもコータの話題だったし、コータのことが好きだからその話をしてて、好きな授業の事を忘れちゃったんだな?
なるほど、あの子達はサクカさんがコータと仲良くなれるよう気を使ったってことか。
なんども言うが、僕は人の機微には敏感な男だ。
ここは僕も空気を読もう!二人のために行動しようじゃないか!
だが、ここでいきなり僕が去って二人きりにしてしまうのは悪手な気がする。
怪しすぎるし、コータはそういうのに疎いから僕が影でアシストした方が上手くいくかも。
よし、頑張るとしよう!
「ど、どうしたのベンケイ君?あっちの方チラチラ見て」
「いや、何でもないよサクカさん……。それより、僕なんかのことよりコータのことをはなそうじゃないか……!」
_______________後半へ続く!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます