第一話 ソードマン コータ視点

 右、左、上、上、右、右と見せかけて左。

 何発も何発も打ち込まれる打撃。

 はじめは目でとらえることもできなかったものの、今ではしっかりと把握することができるようになった。

 けれど体は思うように動かず。

 把握はすれど対処はできない。

「ぐっ!!」

 ……これじゃあ、意味がない。

「……コータ。ここ最近の修行でお前はどう成長した。言ってみろ」

「……親父の剣筋が見えるようになった」

「ふん、そうか」

 そう一言言うと、親父は木刀を上段に構え、腕を何度か振るう。

 その剣筋は、全く俺の目には捉えられなかった。

「……っ」

 手加減、されていた。

 それもかなりセーブしていたみたいだ。

「もう一度言ってみろ」

 何も言えない。俺はうつむくしかなかった。

「コータ、今のお前には諦めぐせがついているな」

「なっ、どう言うことだよ親父!俺は何時だって全力でやってるだろ!」

「精神的な話ではない。肉体的な癖だ」

「肉体的……?」

「かつてのお前ならばいかなる攻撃をも受ける直前まで避けようと立ち回っていた。だが今の体はお前は攻撃を受けそうになったとたん体を身構え耐えようとしている。……なまじ速度に目が追い付いて来たからこその弊害だな」

「……身構えるの何がいけないんだよ」

「いけないな、これが修練用の人相手だからいい。だが、実践になったときお前の、いや、人間の身体ではやつらの攻撃を一度でも食らってしまえば耐えることはできまい。良くて大怪我、最悪即死だ。食らってしまえば戦闘を続行することはできないだろう」

「それは……」

「お前の役割はなんだ、自分のパーティでの仕事を忘れるな。攻撃を受けるのはシールドの仕事だ」

 俺の仕事……。

 ぐっと、手に持った木の短剣を強く握る。

「更に言うなら、我らの流派は他の流派と比べても速度を重視する。先程程度の速度で慢心するな」

「……」

「わかったか?」

「……はい」

「ならいい。今日の修行はこれで終わりだ。こい、手当てをしてやる」

 親父はなれた手つきでてきぱきと包帯を巻いていく。

 俺は、手当てをされながら悔しさで涙が出そうなのを必死にこらえた。

 どうして、強くなれない。

 毎日毎日剣を振るった。

 毎日毎日親父に打たれた。

 なのにまだ、先が見えない。

「よし、もういいぞ」

 親父は手当てを終え包帯をしまう。

 時計を見ると、午前三時を回っていた。

「コータ、お前の癖は肉体的な癖だが、意識的に直すことができる。攻撃が来て身構えてしまうのは生き物の本能だ。これからは攻撃が来る度にどちらでもいいから足を動かすように意識しろ。それを繰り返すことで攻撃に対し必ず避け用とする癖をつける」

「……親父」

 そこで親父は俺の頭をくしゃっと一撫でし、告げた。

「……明日からは速度をあげる。……ついてこれるな?」

「……、……!は、はいっ!!」

 道場から出ていく親父は、それっきりなにも言わなかった。

 それでも、一人道場に残った俺はなんだか少し嬉しくて、悔しさと嬉しさが同居した変な感情に変な顔になってしまった。



《ソード》、ヴェルダリア王国、冒険者たちがつくことになる基本職業の1つ。

 その役割は主に片手、または両手での剣をしようした機構兵士との直接戦闘、もしくはシールドの破壊だ。

 冒険者たちは地上を取り戻すために帝国に支配された上階層へと戦いに赴く兵士の通称である。

 そのため、必然的にヴェルダリア王国製の狭い通路の中での戦闘を強いられる。

 狭いなかで剣を振るうために盾を持っては邪魔になるし、盾を使いこなすために剣を持っていてはうまく支えきれない。

 上級冒険者のなかには両方使いこなす人もいると言うが、少なくとも初級冒険者の筋力体力速度ではそれは不可能だ。

 そのため、対した防御手段を持っていないソードの致死率は基本職のなかで一番。

 回避力は欠かせない。



 回避力、回避力なあ。

 シャワーを浴びたあと、俺は布団に倒れこみ少し考える。

 今日の修行のこと、これからのこと、不安そうなベンケイや帰ってこないカナさんのこと。

 ……カナさん。

 幼なじみのベンケイの姉のカナさんとは小さい頃になんども遊んで貰った。

 それから、時がたち、カナさんが冒険者学校にはいる頃になっても、カナさんとの交流は続いた。

 ベンケイと同じ赤い髪をした年上の美人なお姉さん。

 いつも笑顔で、明るくて、遊ぶとき俺とベンケイはいつも引っ張られていた。

 冒険者学校で模擬演習をしていた時の勇ましい表情に鋭い剣筋、堂々とした立ち回りは、かっこ良くて、知らなかったカナさんの姿にまた憧れた。

 カナさん。

 俺の初恋の人。

 そして尊敬する目標。

 絶対に帰ってくるって心から信じている。

 だが、深く考えるとどうしても不安というなの蛇が首をもたげてくる。

 ………………。

 深く考えるのは止めよう。

 早く寝ないとまた明日の授業でねちまうしな……。

 目をつむると、疲れていたからだに急激な眠気が襲いかかる。

 ふああ……。

 あ、宿題やり忘れたわ……。

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