第14話 ジンー1

俺がこの店を見つけたのは偶然だった、仕事帰りに雨が降って来たんだ、すぐ止むだろうと思って駅の近くで雨宿りついでに一杯やろうかと思い入ったのがこの店だった。


「おう、よく来たなこの雨の中、何にする?」 と聞かれた、俺は無言でカウンターに陣取っている男のグラスを指さした。


「エールか、わかった、」そう言ってバーテンダーは冷蔵庫からグラスを出しエールを注ぐ、


「はいよ、」そう言いながら俺の前にエールを置いた、俺ってエール飲んだこと無いんだよな、てっきり黒ビールだと思ったんだが、まあいい 何でもいいから飲んでみよう、


複雑な香りと深いコク、フルーティーな味を生み出した感じの自分にとっては美味いと思えるものだった、これはかなり気に入った、こうなってくると何かつまむものが欲しくなる、そこで俺はバーテンダーを見る、彼が視線に気が付いた時手を上げる するとバーテンダーが、


「何かご注文かい?」と聞いてくる、俺はメニューの一点を指さし注文する、


 暫くして出てきたのはタコ焼きだった、いや 俺が指さしたのはその隣のナッツセットだったんだけどな、と思いながら6個入りのタコ焼きを食い始める、食い終わって再度バーテンダーを見る、するとまた目が合うので手を上げる、再度ナッツセットを注文そしてグラスを指さしてからその指を軽く上向きにして1の意味を示す。


 エールがすぐにやって来て、暫くしてから運ばれて来た、タコ焼きがw 俺は何も言わずタコ焼きを食う、そして又同じ様にバーテンダーを見てから手を上げる、

バーテンダーに今度こそと思いながら見える様にナッツセットの所を指さして確認をする、バーテンダーは指でOKサインを作り奥に入っていった。


出てきたのはタコ焼きだよ、どんだけ俺にタコ焼き食わせたいんだよここのバーテンダーは、おう,こうなりゃとことん付き合ってやるぜ、俺はタコ焼きをたいらげる、するとバーテンダーが俺の方を見てるんだよ、俺は負けない、こんな事で引いたりはしないんだよ!


俺はナッツセットを指さし、その指を立てて1の意味を作る、バーテンダーは目を輝かせながらサムズアップしてきた、どういう事なんだ!と思いながらそっちがやる気なら俺も受けて立たなきゃ男じゃねえ、と思いながら出された物は全て完食してやろうじゃないか、俺はタコ焼きを食らい続ける、そう思い12皿目を注文した時だった、

「お客さんすいません、タコの在庫がもう切れたのでタコ焼きが出来ないんです、何か別の注文をお願いできますか?」と聞いて来た、勝った!俺はこの勝負に勝ったんだ、と思いながらメニューのナッツセットを指さした、


ナッツセットがやっと来たんだが俺の腹はいっぱいで何も入らない状態になっていた、


「マスターこんばんは~」「こんばんは~」


男が二人入って来た、


「明日から学院に入学だからな、刀祢一杯やってからいかね~か?」


「いいね~拳志じゃあ景気付けに飲んでいくか」


彼らはビールを注文し一気に煽る、そして代金を払ったかと思ったらカウンターの奥へと消えていった。


何故か俺の目の前にはプリンがある。


「お前さん気に入ったよ、これは俺からのサービスだ」


何だかバーテンダーに気に入られたみたいだ、俺はナッツセットとプリンを完食してレジに向かい言われた金額を払いこの店を出た、外はすっかり雨が上がっていた。


「カナジさん、あの人ってこの店初めてだよね?」


「そうだね、初めてだ」


「そんな人になぜ特製プリンを?」


「なに あの男、向こうに行ったらいい戦士になるんじゃないかと思ってな、無駄口は叩かねえし只現状に文句も言わずその現状を突き破って来る、俺はその心根が気に入っちまったって所かな」


「またこの店に来るかもどうか判らないんですよ?それなのに 何故」


「俺のカンって奴だ、」


「そうですか、カナジさんのカンがそう思うなら そうなのかも知れませんね」


「まあ、必ずあの男はここに来るさ、」




 そして半年後俺は妙な夢を見たんだ、夢の中の人は男だか女だかわからない中性的な人が出てきた、とても美しい羽衣を纏って 夢に現れたその人は、美しい声と素晴らしいプロポ-ションに鍛え上げられた筋肉!筋肉?うっすら髭剃り跡が青っぽくなって顎が割れていた 意思の強さを表しているような感じだった、俺は夢の中で会話をする、


「あんたは誰だ、」


「あたし?あたしは精神生命体なのよねぇ~あなた方の世界で言う所のGODって感じかしら」


「そのGODが俺に?」


「あなた半年前に冒険者ギルドって居酒屋でプリン食べたでしょ?」


「ああ」


「それがあたしとあなたを結ぶ物だったのよぉ~」


「そうか」


「理解してもらえて良かったわぁ~」


「俺に何をしろと?」


「あなたはまたあのお店に行って異世界へ飛んで欲しいの」


「・・・・」


「あのお店のマスターが貴方を気に入ったみたいなのよね、だから貴方はもう一度あのお店に行く事をお勧めするわよぉ~」


「断ったら?」


「何もペナルティは発生しないしどうにもならないわよ、」


「そうか」


「でも貴方は必ず来るってわかってるから、向こうで待ってるわよ~じゃあね」と言って投げキッスを放ってきた。


俺はうすら寒さを覚えつつも再度眠りについた。


仕事が終わり俺は武蔵浦和のあの居酒屋に行く、


「よく来たな、あれから半年か、どうだい体の調子は 」


「まあまあだ」


「そう言えばお前さん今日もナッツセットとエールで良いんだろう」


「ああ」 くそ!やはりあの時俺がナッツセットを注文していたのをしっかりと理解したうえでタコ焼き出してきてたのか、


「悪かったな あんときはあんたを試す様な事をして」


「いや」


「っで、あんたこの頃変わった夢を見なかったかい?」


「ああ」


「っで 今日ここに来たって事だな」


「そうだ」


「こっちへ来な、多分あんたの求めていた所に案内してやるぜ、っとその前にこれを書いておいてくれ」


そう言われた俺は紙に書き込みちょっとだけ距離を空けバーテンダーの後ろについて行く、


「着いたぜ、ここだ お前さんの体格なら230番台の中あたりか...」


そう言って234番のロッカーの前に立ちロッカーを開ける、中には初級冒険者装備と衣装が入っていた、


「お前さんクレジットカードは持ってきているか?」


「ああ」


「じゃあ説明しておこうか、ここは異世界に転移出来るポイントなんだ、向こうでは魔法が使える、しかししっかり学ばないとそれは発動すらしねぇ、だから教習所みてえなもんがある、そこへ入ってしっかり学んでくれ 死なない為にもな、っでなここに戻ってくる場合は向こうで1週間たっても今日の夜0時にロッカーに戻って来れるから日にちはあまり気にするな、ただし、最初の一週間たったら必ずここに戻っこい、それが出来ない場合は出入り禁止となるからよく覚えて置け、あとは向こうで聞いてくるといいぞ」


「わかった」


 俺はラノベ大好きだ、当然こんな世界が有るなら何をおいても行きたかったんだよ、それがこんな風に実現できるなんて、と思いながら衣装を着替える、ここにある装備品を見繕うとそこにはカットラスが有ったのでそれを帯びる、テンガロンハットも有った更にポンチョを被って冒険者って言うよりどこぞの無法者って感じに仕上がった、そして反対側のロッカーから異世界の街へ移動していった。


ロッカーを抜けるとそこは人のざわめきに溢れたカウンターだった。


「ようこそ、テンシンの街のギルドへ こちら初めてですよね?」


「ああ」

ここはコスプレ流行っているのか?と思いながら目の前の少女をみる、赤いチャイナドレスに熊耳の付いた頭、お尻には熊しっぽが付いている


「ではこちらのシステムをご案内しますね、最初の1週間で一旦向こうの世界に戻ってもらいます、もしも1週間で戻ってこなかった場合捜索されて強制退去となります、そしてギルドカードがこちらになります、血を一滴ここに垂らしてくださいね」


 俺はカードに一滴血を落とそうと思ったが、勢いよく指が切れてかなり多めにカードに血がかかったのでポケットからティッシュを出しふき取る。


「あらあら、大丈夫ですか?」 


「問題ない」 そう答えて次に移る


「ではこちらの世界は初めてと言う事なので魔法についてのご説明しますね、この世界では魔法が有ります、でもそれは特定の条件が有るんですよ それは魔導蟲って言う蟲を寄生させることによって魔法が使える様になるんです、こちらに来れたと言う事は貴方にも魔導蟲が宿っているんですね、っでその使い方を学ぶところがこの魔法学院です、魔法の使い方を教えてくれるから是非お勧めですよ、金貨3枚と結構いい金額だけど、それ以上の価値は有ると思いますから。」


「これで」

俺はクレジットカードを出して渡す


「一括でよろしいですか?」

そう言うとカーボン紙を出してプリンタにセットしガッチャンとスライドさせる


「こちらの当面の生活費はどうします?金貨1枚分くらいやっておきますか?」


「頼む」


 俺は金貨一枚を受け取り宿を紹介された、このギルドからすぐの所にあった、1階がレストランで2階が宿泊場所になっていた、取り敢えず7日分前払いで済まし、部屋に入る、キングサイズのベッドが一つと清潔そうな巨大な風呂、トイレがあった、明日は朝から講習だから早めに休んだ、


 朝目が覚めてから1階に降り朝食にする、日本の超一流ホテルと変わらないクオリティの朝食が摂れた、腕時計を見ると時刻は8時過ぎた頃、集合時間までまだ30分程あるがギルドに行く、待合所で座り会話に耳を傾ける。


「おい、聞いたか今度学院で飛行魔法も教えてくれるらしいぞ、」


「おお、聞いたよそれ、でも全員が習得できるわけじゃないんだってな」


ほう、この世界では飛ぶことも出来るようになるのか


「その条件ってのが最低でも火、水、風、土の魔法が上級クラスで使えないと駄目なんだってよ」


「じゃあ俺達使えねえのかよ」男はがっくり項垂れた


ふむ なかなか厳しい条件が有るようだな、


「そう言えば裏の訓練場で飛行魔法の出来る連中が集まって一気に採石場へ行くみたいだから見に行ってみねえか?」


「そうだな、ちょっと見ていくか」


俺もそいつらの後に続き見学させてもらう事にする、


「じゃ~んけ~んホイ!」


訓練場には12~15才位の少年少女達が集まってジャンケンをしていた、


「ぼ、ぼくの勝ちなんだな」


ウサギ耳の少年が喜びながら小躍りをしていた、


「じ、じゃあ ぼ ぼくが今日の先頭なんだな、み、みんなしっかり付いてきてほしいんだな」


ウサギ耳の少年がそういうと残りのメンバーが合図をする


「今日はラビタロウ君が隊長だ、みんな綺麗に編隊を組んでいくからね」 ダークエルフっぽい少女が声をかけていった、


「み、みんな今日も一日よろしくなんだな、今から行くんだな、一回上に行ったらそこで編隊組むからよろしくお願いしますなんだな」


 そう言うと全員上空に上がっていった、そして兎人の少年を先頭に綺麗なV字を作って移動していった、それを見届けた俺は先ほどの待合室に戻る、すると猫耳を付けた大柄な姐さんが魔法学院初級コースの生徒を集めていた。


「はい、魔法学院初級コースの受講生はこちらに集合!」


「は~い、」と言う返事と共に12~13才位の少年少女達が集まって来た、その中に俺も混ざる、その他20才前後の男女も4人ほど集まって来た。


「では受講生はこちらの教室に集合!」気合いの入った声で受講生たちを教室に誘っていく、


「今日からこの講習に参加する者はこれから1週間ここで訓練する事になる、気合い入れて行けよ!」


この姐さん 俺は猫獣人かと思っていたが他の受講生の話によるとどうやら虎獣人らしかった、


「この初級コースの教官のステファニーだ、解らない事が有れば何でも聞くように、」


そう言って自己紹介をした、そして受講生全員に自己紹介をさせていった、どうやらこれを毎日やって行くようだ、点呼で俺の番になった。


「相良 仁だ、宜しく頼む」そう言って俺は自己紹介を終わらせる、


「じゃあ今日から受講するジン君に魔法の成り立ちを説明できる人、誰かいるかな?」


「はい僕がやらせてもらいます」


そう言って名乗りを上げたのはレトリバーっぽい犬の耳が特徴の少年だった、


「はい、それではトミー、君に任せた、」


トミー少年の説明はとても分かりやすかった、


「では何かここまでで判らない事とかありますか?」


トミー少年が聞いてくる、


「はい、質問が有ります、」


20才位の受講生4人組のうちの一人が手を挙げて質問してきた、


「魔導蟲が死んでしまう事は在るんですか?」


「はい、基本的には魔導蟲は宿主が死なない限り生きてるそうです、ただ成長期に負荷を掛け過ぎると魔道蟲の神経節が切れて魔法が使えなくなってしまう事があるそうです」


「そうですか、有難うございました」 と20才位の受講生は礼を言ってから着席していった。


そうやって講義と実技は1週間続き俺は初級講習を終わらせた、


「ジンさん今日で1週間だから一旦帰らないといけないんですよね」


「そうだな」


俺は熊獣人の少女のカウンターに行き居酒屋冒険者ギルド戻る事にする、俺はロッカールームに入り元の服に着替えてこっちの世界に戻ってきた、


「よう、お帰り どうだった?向こうの世界は、」


俺は何も言わずサムズアップだけして見せた、


「そうかい、良かったって事だな、じゃあまた明日からいくのか?」


「ああ、宜しく頼む」


「ほう、ジン今日はよく会話するな」とバーテンダーが言った。


 そうして俺は店を出てから自宅に戻る、戻ってみて確認すると確かに俺は一週間前の出発した日の12時に戻って来ていたようだ、明日は水曜日何時も通りの仕事だ、俺は風呂に入る、感覚では1週間前だが実質昨日の朝にも食ったカレーの残りを温め夕飯にした。


 朝から仕事だ、俺はダイカスト工場で働いている、日がな一日機械の前で立ち作業だ、実際俺は疲れていたのかも知れない、来る日も来る日も同じ作業で顔から表情は消え只の作業マシーンとなってきたていた俺を救ってくれたのがあの世界なのかも知れない、こんなウキウキした気持ちで仕事をするのは本当に久しぶりだ、俺は作業ミスのない様に今まで以上に注意を払って作業をした、そしてまた6時の終業時刻になると俺はタイムカードを押し自宅に戻る、風呂だけ入って武蔵浦和駅方面に向かった。


「おう、よく来たな」


俺は夕飯を食っていなかったのでメニューのナポリタンを指さしその指で1を作る、


「ナポリタンだな、飲み物はどうする?」 そう聞かれた俺は


「エールで」 と答えると




そう言えば俺はこの店であまり喋ったことが無かったのを思い出し サムズアップして見せた、食い終わった俺は金を払いロッカールームへ向かう。


「あんま無理すんじゃねーぞ」 バーテンダーがそう言うと俺は、


「また来る」 そう言って俺はロッカールームの奥に消えていった。


「こんばんは、ジンさん」


「やあ」俺は挨拶を返す、


「また、宜しく頼む」 そう言って俺は宿に向かう、


2階に上がる前に宿屋の店主に合い「また1週間頼む」と言って宿代を渡した、時刻はまだ宵の口 ちょっと表に出て街の中をさまよってみる事にする、夜の街の中はちょっとデンジャラスな感じだ、物陰にたむろってる男たち、ちょっと明るい店の前には娼婦っぽい女がいる、俺はポンチョの中でカットラスに手を掛けたまま歩く。


 一通り繁華街の様子を見学した俺は宿に戻り風呂に入る、これはギルドで指定されたことだ、最初の内は魔力が無くなるまで使い切らないと魔力量が多くならないらしい、俺は魔力を無意味に消費すると言われるリングを両手両足に付けているんだがこれの効きが悪い様だ、最初に片腕に装着した時殆ど変化が無かったので両手両足に付けるようになった、


朝、俺は目覚ましで起きる 腕時計のアラームが8時で鳴るようにセットしておいたからだ、着替えてから一階のレストランに向かい朝食を摂る、そしてギルドへ


「中級受講生はここに集合だ」 虎獣人の屈強そうな男が其処に居た、


「俺は中級教官のマレーだ、」


「ここでは基礎的な身体強化を学んでもらう!」


「早速開始だ、俺に続け!先ずはこの道をまっすぐいけ!採石場跡地が有るからそこまで行くんだ!それを往復するんだ!」


「お前ら、苦しくなるまで走れ!苦しくなっても更に走れ!もうダメだと言う所まで走れ!」


「もうダメだと言う所で休憩でしょうか?」 少年が挙手をして質問する、


「何を言ってるんだ貴様!そこから更に走り込むんだよ、もう動けなくなって何もできなくなった所が出発点だ!」


非常に解りやすい説明だった、兎に角限界超えても走り続ければ身体強化すると言う事らしい。


俺は走った、脇腹が痛くなっても走った、反吐吐きながらも走った、そして俺はぶっ倒れた、そこに水魔法で大量に水を掛けてくれた人がいた、ポンチョに吐き散らかした反吐も洗い流されて見た目もましになったようだ。


「さあ頑張って走るんだよ、足を上げて前を見て一歩を踏み出すんだ!」


そこには男女計4名が俺を心配そうにのぞき込んでいた、俺は片手をあげ挨拶とし、この街道を更に進む、足を上げ一歩踏み出すするとさっきまでの足の重みが消えうせどんどん前に進んでいく。


「あの人もう自力で身体強化してるよ、」


驚かれていたようだがちゃんと教官の言う事を理解出来れば全く問題の無い事なんだが、と思いながら俺は採石場までたどり着いた。


俺は採石場につくと次に何をすればいいのかが解らなかった、なので中級っぽい人達が集まっている所を覗いてみた、ここから中級の本格的な訓練へと入って行く事になる。


続く

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