第3話 理想の愛とは何か
その人は恋愛経験がそんなになく、30代前半で、割と好青年なのであるが、会話に「間」がなく、延々しゃべり続けるのである。そして、私は蕎麦屋から家に帰ろうとしたのであるが、ついてくるのだ。それから公園で、愛について説き始めたのには驚いた。終いには自分の小説を朗読して感極まって泣き出した。
「クレイジーだ」
私は真剣に思った。私もクレイジーであるがこいつほどではない。しかも、こいつは、私の家に来ようとしている。本当に今、思い出しても戦慄が走る。彼は投稿サイトに膨大な自分のエッセイを投稿して、これは私の研究結果である。と言い出した。何だか哲学者の名前と概念を羅列した支離滅裂な随想である。
私に愛を説いて何をするつもりなのであろうか。ゲイなのであろうか。私は家から少し離れたところで、別れたが別れ際に
「あなたに愛を」
と言い出した。
私は何だか知らないが本当に嫌な気持ちになった。これだったら、世間に出まくっておごり高ぶってリア充になって鼻持ちならないような人間と会った方がはるかにましである。というか、愛を冒涜しているのではないだろうか。
私は勿論、愛を説くことなんかはしないし、この文章でも、何でもそれはそうであろう。というのも愛を説くというのは上から目線の態度なのだ。百歩譲って、実践できて、たとえば三人の子供の父とかならわかるが、そうでもない独身なのである。こいつにどうして愛を説かれないといけないのであろうか。そこら辺の羞恥心というのはないのだろうか。
「あなたに愛を」
というのと
「死ね」
といわれるのとどっちが嫌かといえば、勿論、後者であるが、でも、同じくらいのダメージを私は受けた。この何ともやりきれない思いはなんであろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます