第16話
私はどうしても、涼介の目をちゃんと見れなかった
やっぱりこのまま、なかったことにして…なんて過ごせない
「涼介、話があるの」
私は大樹と過ごした1ヶ月のこと
何もかも、すべて、話した
涼介は俯いたまま、一言も発しなかった
握りしめた拳が震えてるのがわかった
「しお…」
「私、出て行くね。…ごめんなさい」
涼介の言葉にかぶせるように言った
彼は何も言わなかった
何を言おうとしてたの?
俺も浮気してたんだという告白なのか…
そんな言葉は聞きたくなかった
今は自分だけが悪者になりたかった
あなたの顔を見ているのが辛かった
私…また、自分のことばっかり
ひどい妻だね
実家に帰った
姉も妹も嫁ぎ、父は早くに他界していたので、今は母が独りでいた
「ただいま」
「おかえり…栞、その荷物は?」
「うーん、しばらく置いてくれる?」
母は問いただすことはしなかった
どう見てもおかしいと思ったと違いないのに
「わかった。しばらくよー」
「…はい」
「栞、お腹すいたでしょ」
昔っから、私が辛いこと悲しいことがあって、落ち込んでると
美味しいものたっくさん食べさせてくれた
黙って、キッチンに立つ母の背中を見て、込み上げてくる涙を我慢した
お母さん
どうしたら、
愛する人を幸せに出来るの?
実家に帰って来て、半月が過ぎた
涼介ときちんと話をしないと…って思って
縁側でボーッと空を眺めてた
「栞、アイス食べる?」
「クスッ、子供じゃないのよ」
「あらー、栞はいくつになってもお母さんの子供よっ、はい」
「ありがとう」
母と並んで座り、バニラアイスを口に運んだ
「ねぇ、お母さんは…お父さんと結婚する前に好きな人いた?」
「さぁ、もう昔のことだから、どうだったかなぁ」
「ずるいー。ちゃんと答えてよー」
母は優しく微笑みながら懐かしそうに話始めた
「そうねぇー、若い頃のことはもう忘れたけどね
……お父さんは、どんなお母さんも包んでくれる大きな、あったかぁーい人だったよ。
栞が涼介さんを連れてきた時、お父さんと似てるなぁって思ったの。この人ならきっと大丈夫ってね」
「涼介がお父さんに?」
「そうーよー。
…フフフ、やっぱり、私の目に狂いはなかったわね」
母がいたずらっぽく笑い、立ち上がって手を振った
その先には
汗を拭きながら、真っ直ぐ歩いてくる涼介の姿があった
母に気が付くと彼は深々と頭を下げた
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