第17話

2人で近くの海を歩いた


「覚えてる?涼介が初めて実家に挨拶に来てくれた時、ここの夕日を見に来たこと」


「覚えてるよ。栞が大好きな場所に案内してくれるって」


「そう。変わってないでしょう」



「あぁ


……栞、帰ってこい」



「それは、出来ないよ」



私の方を真っ直ぐ向いて告げてくれた言葉に

頷くことは出来なかった


彼は少し間をあけて、真っ赤に染まる海を眺めながら、話始めた



「栞が…一生懸命、偽ることなく、すべてを話してくれた時、いつもなら、すぐ泣くはずの栞が涙を見せなかった。

あの時のお前の顔が頭から離れなかった」


「きっと、この夏、訪れた出来事を中途半端な気持ちで受け止めたんじゃないって

そして、 栞は変わった。強くなったんだよな」


「わだかまりがないと言ったら、嘘になる

でもな、やっぱり俺は一人では生きていけない。

弱い人間なんだ」




「涼介は弱い人間なんかじゃないよ。

とても強い人だよ」


彼の正直な言葉に思わず、涙が溢れそうになり、空を仰いだ


そんな私とは反対に俯き加減になった涼介が話を続けた



「栞も気付いてただろ?お互い様だ。俺だって……。お前に謝らないといけないことしてた。

……言い訳になるかもしれないけど、いつも何処か遠くを見ていたお前を俺の方に向かせたいと思ってたのかもしれない。

ごめん、やっぱり言い訳だな。

……あっ、でも、もう1つ弁解するとしたら、俺は浮気、栞は本気だったから、ペナルティ1な」


「もう~、よくそんなことさらっと言うよー」


泣き笑いした


「口に出した方がいいんだよ。俺達、わかりあってるようで何1つわかりあえてなかったんだよ。

口に出さなくてもわかってるって勝手に思い込んでたんだよ

…………なぁ、栞、ここから、また始めよう。俺じゃダメかな?」



「こんな私で、いいの?」


涼介は包み込むように抱きしめて言った



「こんな栞がいい。栞じゃないとダメなんだ」



「ありがとう……ごめんね」



涼介、ごめん、ごめんね

あなたの胸に顔を押し付けて何度も言った


全部、丸ごと、包んでくれる

ここが私の居場所なんた


そう、気付けたのも

大樹と過ごした夏のお陰かもしれない




「栞、また、ここの夕日見に来ような。

今度は3人で、いやっ、4人かな」


「もう、涼介、子供ってこと?クスクス、そんな一気に増えないから。とりあえず、3人でね」


「ヘヘヘ、そうだな。じゃ、早く帰ろ!」


私の手を引っ張って走り出した彼


「ちょっ、ちょっと、そんなに急がなくても」


「だって、早く子供作らなきゃ」


「やだっ、何言ってるの、ここ実家だよ」


「あっ、そうだった」


露骨に落ち込んでる彼が愛しい




涼介のこの大きくてあったかい手

この温もりを忘れないように、歩いていこう


あなたのそのお日様のような笑顔を曇らせることはしないよ


私の手

しっかり、握っていてね




手を繋いで、海岸沿いを走る


揺れる広い背中


夕陽に照らされた涼介の白いシャツが

オレンジ色に染まった







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