第10話

私は涼介が帰国するまでの間

大樹の側にいようと決めた


夫を裏切っていること

許されないことをしている

そんなこと百も承知だった

…けど、今の大樹を一人にしておくことは出来なかった



次の日、身の回りのものをまとめて、家を出た


「大樹、私…来ちゃったよ」


明るくおどけたように言う私を見て彼は心配そうに言った


「本当にいいのか?栞の生活を壊してしまわないか?」


「だからぁ、言ったでしょ?何も聞かない、気にしないって!わかった?」


少し考えて彼は顔を上げた


「わかったよ。栞、お前、おっとこまえだなぁ」


「男前だなんて、失礼ねぇ、こんないい女いないでしょ」


「あー、ほんとに、いないよな」


「なぁーに、そんなこと言うなんて気持ち悪いよー。さっ、荷物は何処に置けばいい?」


テキパキと動く私に彼は戸惑っている様子だった


でも、こうやっていることで自分の中の罪悪感というものを薄れさせようと必死だった



大樹…

あなたはあの頃

思ってること、言葉にしてくれなかった

…不安が募って別れてしまった



彼の為と言いながらも

ほんとは過去の大樹の気持ちを知りたかった


心のどこかに、そんなズルい気持ちがあったのかもしれない




大樹との生活が始まった


昔と同じように


おはよう

いってらっしゃい

ただいま

おかえり


何も変わりはない


変わったことと言えば

彼が私を求めてこなかったこと


どうしたんだ?

大丈夫か?


なんて、穏やかに問いかけることはしなかったけど、大樹はいつだって、私の心に寄り添ってくれてた


わかってたんだよね


あの頃だって…。





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