第9話
俺は眠ってしまっていた
目を覚ますと洗いかけた食器のあるキッチンは煌々と灯りがついたままなのに、
玄関は真っ暗になってる
気になって、玄関に行ってみると…
シューズボックスにもたれかかって、うとうとする栞の姿があった
「栞っ」
「大樹、私…」
「何してんだよ、こんなとこで」
「大樹を置いて…帰れなかった」
立ち上がった瞬間ふらついた栞を慌てて支えた。
俺の腕をギュッと掴んで見上げると、
みるみるうちに目にたまった涙をポロポロ流しながら言った
「大樹、私…どうしたらいい?ねぇ、どうしたら…」
泣きじゃくる彼女を抱き上げて
ベッドへ静かにおろした
脇に座り、目尻から伝い落ちる栞の温かい涙を拭い、大きく息を吸って髪を撫でた
「ごめんな、栞。俺のことはもう、気にするな。
俺は…いつの時代もお前を苦しめてばかりだな」
「そんなこと…ない。苦しいのは大樹なのに。私が泣いちゃ、だめだよね」
大樹……
切なくて
淋しくて
やりきれない
そんな目をしてるくせに、
私を安心させようとしてくれる
あなたを守りたい
支えられるのは私しかいない
そう…思った
私はベッドに座り直し、彼の手を引いた
横に並んで座る大樹の両手をしっかりと握って話した
「大樹、私、しばらくここにいるよ」
「栞、それはダメだ」
「いいの。何も聞かない、何も気にしないって約束して」
「でも…」
「今から私達はあの頃に戻るの。それでいいの」
黙ったまま俯く大樹の頭を抱えるようにして包み込んだ
上目遣いに見つめる彼の視線が熱くなってくるとゆっくりと唇が触れた
さっきの強引なキスとは違う優しいキスが何度も繰り返される
胸の奥が…震えた
この世に
タイムマシンなんてものがあるのなら、
過去に戻って私に教えてあげたい
彼は
あなたのこと愛してるよ
心から、愛してるよ…と。
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