第6話

病院へは出来るだけ行くようにした

大樹はあの頃にタイムスリップしたようだった


体調が良くなってすべてを話したものの、どうしても自然と昔に戻ってしまう




「栞、仕事忙しいか?あのスケベ親父の秘書なんかもう、辞めろよ」


「スケベ親父とは失礼ね、とてもいい方よ」


笑ったと思った大樹の顔が一瞬にして曇る


「あっ、違うんだよな、栞…無理しなくていいよ」


私は直人さんに言われた通り、昔のように振る舞った


「いいのー、私は。

大樹はあまり考えすぎないでいいんだからね!」


「俺は…いったい…。栞はここにいてもいいのか?」



私はわざと話をそらした


「そうだ、大樹、明日退院だってね、良かったねぇ。家に帰れるよ」


「ああ」




大樹はベッドに座り、窓の外に広がる夏の空を見上げた

何も言わなくなった彼をどうしてあげられることも出来ず、そっと手を握った


大樹は私の手をしっかりと握り返したけれど、顔を上げたまま、こちらを見ようとはしなかった


泣いてるの?

そんな顔見せたくないんだね


私もあなたの方を向かず

ただ、黙って同じ空を見上げた





大樹は退院し、仕事にも復帰した

働いている方が刺激になって、記憶が戻る近道になるかもしれないということ。

直人さんのサポートもあり、特に業務に支障をきたすことはなかったようだ



「直人さん、栞…結婚してるんですよね?幸せなんですか?」


「幸せだと思うよ。あまり詳しいことは知らないけどな」


「そう…ですか」


「お前の記憶は栞ちゃんと付き合ってた頃のままだからなぁ。

もしかして…記憶のどこかで、あの頃に戻って、ちゃんと話しておきたいことでもあったのかもな」


「…」


「まっ、無理すんなよ。栞ちゃんに連絡するぐらいいいと思うよ。っでないと、お前、壊れてしまいそうで心配だよ。

あんま、ためこむなよ」


「ありがとうございます」




現在のことを受け入れようとしても

あの頃の俺が心も身体も栞を求めてた


栞に会いたい

触れたい


その思いはどうしようもなく……

俺は彼女に電話してた









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