私だってそうだってそう言ってんの

何もないってそうだって

　何にもない。というより、自分が何もしていないだけなんだけど。大学生になって初めての春休み。驚くことに二か月近くある。二月の頭に後期試験をすべて終え、休みだ休みだと喜んだものの、特に何かするわけでもないし予定も真っ白。そもそもスケジュール帳なんて持っていない。今日何曜日？　てか今何時？　布団の上でゴロゴロゴロゴロ。とりあえず起きる？　けど起きて何すんのー。

　けど起きなきゃ寝るだけしかないと思い起き上がる。洗面所で顔を洗う。化粧水つけて乳液ぬって、そのあとコンタクトつけて、はいこれで出来上がり。もう何日メイクしてない？

　冷蔵庫を開ける。中にイチゴが入ってた。そういえば昨日お母さんが買ってきたって言ってた。夜食べたら太るからって残してたやつ。大して体型に気を使ってるわけじゃないんだけどね。まあ女の子ですし？　大学生ですし？　これ関係ないか。ほらだっていつ合コンに誘われてもいいようにしてないと。

「ありえなーい」

　そう言って開けた口にイチゴを入れる。甘い。面倒くさくて葉っぱも食べちゃう。

　誰もいない部屋を見る。カーテンから差し込む光。よろよろした足取りで光へ向かう。眉間にしわを寄せて外を覗く。今日はずいぶん暖かいみたいだ。二月も下旬。私の知らない間に厚手のコートの出番は終わっていたみたい。あのコート気に入ってたからもっと着ていたかったのに。ハンガーにかかっているートを見る。「お前が外に出ないからだろ」なんてしゃべりだしそうだけどその通りですそうですね。選手交代。スプリングコートくん貴方の出番です。クローゼットからスプリングコートを取り出す。

「あ、可愛いじゃん」

　そういえば裏地がリバティプリントで好きだったことを思い出した。これが着れるんなら暖かくなってくれてサンキュー。冬用コートごめんねソーリー。何だか外に出てみようかという気持ちになってきた。

　私は化粧台の前に座りいつ振りか分からない〝可愛い〟作りを始めた。といっても化粧なんてしだしたのは大学に入って半年くらい経ってから。まだまだへたっぴだ。けどそれなりに、チークをさしただけでも私可愛いじゃん何て思っちゃうから。