第一話 王都へ 前編

 「悪い母さん。もっかい言ってくれ」


 「ふむ……だから王都に戻ってエル達を学園に通わせようと思ってるんだよ」


 母さんの言葉は聞き間違いでは無くまたはっきり言われた。


 「いきなり過ぎだけど……何時行くんだ?」


 「ん?明日には出ようと考えているよ?」

 

 「……はぁ!?」


 「っ!?」


 突然大きな声を出したからか、膝の上でうとうとしていたらしいシルフィがビクッと身体を震わせてキョロキョロ周りを見渡していた。


 「悪ぃシルフィ。明日ってマジで言ってるのか?俺全然用意してないぞ?」


 「大丈夫大丈夫、白亜と黒亜が用意してくれてるからね。あと、王馬ツァーリコニィのウルカだっけ?ソレも連れていって良いよ」


 ウルカを連れて行けるのは素直に嬉しい。だって聖獣だし、世界で一番走るのが速い王馬だからだ。


 「シルフィはどうするんだ?人型になれるが銀色狼セリェブロヴォルクだぞ?」


 「大丈夫さ。シルフィ耳と尻尾消してみて」


 「ん」


 母さんの言葉に小さくシルフィが頷くと、シルフィの身体が淡く光り、その光りが収まるとシルフィの頭にあった犬耳と腰に生えてたフサフサの尻尾が消えていた。


 「こうしたら人と同じさね。それに、尻尾や耳があっても獣人と思われるだろうからね」


 なるほどな、母さんも色々考えてるんだな。


 「お兄ちゃん、どう?」


 母さんの言葉に感心してると、シルフィが首を逸らして俺を見上げていた。


 「凄いな。流石シルフィだ」


 褒めながら頭を撫でてやるとニヘラと表情を崩して嬉しそうに笑っていた。


 「母さん、ちょっとウルカに乗って来るよ」


 シルフィを膝から降ろしてから立ち上がり母さんに声をかけて家を出た。


 


 家の裏手に回ると、王馬ツァーリコニィのウルカが水を飲んでいたが、俺に気付くとゆっくり近付いて来て、俺に甘えるように頬ずりして来た。


 「よしよし、ちょっと近くを走りに行こうぜ」


 ウルカの綺麗な黒毛を撫でながら声をかけると、理解したように俺が乗りやすいように移動してくれた。


 「行くぜ、はぁ!」


 少し強めに手綱を打つと、ウルカは一啼きして走り出した。


 森の木々を避けるように手綱を捌きなが森を抜けて開けた泉のある原っぱに出た。


 「よっと……暫くここに居るからさ、遊んできて良いぜ」


 ウルカから手綱と鞍を外してやり、頬を撫でると嬉しそうに走り出したから、それを見てから持って来ていた剣を抜き、白亜達を使う剣技をおさらいするように身体を動かした。










 ~~~~~Other Side~~~~~

 「オイ、サラ!先々行き過ぎだぞ!俺だけなら良いが、今日は他に馬車と近衛騎士団の奴等も居るんだぞ!?」


 悠々と馬を歩かせていたら先に行きすぎてたみたいで同僚であり、ある意味ライバルのレオが叫んでいたから仕方なくその場で馬を止めた。


 「ったく……コレで十回目だぜ?早く行きたい気持ちは分かるが、落ち着けっての」


 レオが隣に並んで来たから馬を歩かせると、溜息付きながら文句を言ってきた。


 「レオは良いじゃない、毎年二回連絡係としてあの子達と会えるんだし。私なんて三年ぶりなのよ?」


 「連絡係は仕方ないだろ?陛下からの直々の指名なんだからよ」


 「それはそうだけど……むぅ」


 私も一回だけ連絡係をさせて貰ったけど、何でか何時もレオだけなのが狡いわよね。


 「っと……そろそろだな。全員!ここで休憩を取る。馬に水とか与えてやれ!目的地はあと少しだ、気張れよ!」


 「「「「「ハッ!」」」」」


 「また休憩?三時間前に取ったばかりなのに?」


 レオの指示で休憩の用意に入っている騎士達を馬上から見ながら文句を言ってやった。


 「人間はまだ平気だろうが、馬がバテちまう。その前に休憩を挟むんだよ」


 納得出来るのにしたくないという複雑な感情を抑え込んで騎士の一人に馬を預けた。


 「ん~……はぁ」


 人数が多い分進行速度が遅いから早く行きたいのに行けない焦れったさがあった。


 「そうそわそわしてんじゃねぇよ。あと五分位で出発す───」


 『王馬ツァーリコニィが出たぞー!!』


 「「っ!?」」


 隊列の後ろから騎士の叫び声が聞こえ、直ぐにレオと一緒に向かった。


 「ついてないねぇ……王馬ツァーリコニィに会うなんてよ」


 「どうするのよ?討伐するには三個中隊(約五百人)でギリギリって聞いてるわよ」


 私達を含めても七人しか居らず、全滅するんじゃと一瞬頭をよぎった。


 「ああ、だが王馬ツァーリコニィは大人しい性格だ。こっちから手ぇ出さなきゃ大丈夫なはずだ」


 レオの言葉に頷きながら最後尾に着くと、騎士の人達が剣を構えて王馬ツァーリコニィを警戒していた。


 ……ん~?あの王馬ツァーリコニィ、何か見たことあるような……。


 「お、オイ!?サラ!?」


 レオの言葉を無視して、王馬ツァーリコニィに近付いていくが、特に警戒されずに触れるくらいまで来れた。


 「あなたって、ウルカちゃん?」


 エル君が飼っている王馬ツァーリコニィを思い出して声をかけると、この子は甘えるように私に頬ずりしてきたから、ウルカちゃんと確定出来た。


 「アハハ♪ウルカちゃん大きくなったね~」


 ウルカちゃんと戯れてると、後ろからレオがゆっくり近付いて来た。 


 「サラ、ウルカって聞こえたが、エルのか?」


 「うん、大きくなったから見間違える所だったよ」


 ウルカちゃんの滑らかな毛並みを堪能していたら、出発の用意が出来ていてウルカちゃんから仕方なく手を離した。


 「サラ、そろそろ行くぞ。ウルカ、お前も一緒に行くかぃ?」


 呼びに近付いて来たレオの言葉を無視するようにウルカちゃんはそっぽを向き、森の中に入って行った。


 「あ~あ、レオの所為でウルカちゃん行っちゃったじゃん」


 「え?俺の所為?俺の所為なの?」


 「それじゃあ皆出発ー!」


 「「「「「オー!」」」」」


 困惑してるレオをほっといて騎士達と先に進んだ。


 「ん?あ!オイ待てよ!?」



~~~~~OtherSideEnd~~~~~




 「ふぅ……そろそろ帰る──あれ?ウルカの奴、何処まで行ったんだ?」


 剣を鞘に仕舞い、袖で汗を拭って周りを見るとウルカは居なく、日も大分傾いていた。


 「はぁ~、探しに行くかね」


 手綱と鞍を拾い上げ、ウルカが走って行った方に歩き出した。


 「ギャヴ!グルルル!」


 森の中に入ろうとした時、珍しことにゴブリンが現れた。


 「はぐれかな?ま、魔法で一発だろ…」


 魔法を放とうと手をゴブリンに向けた瞬間、横からウルカが現れ、ゴブリンの頭を蹄で叩き割っていた。


 「流石だな。帰ろうぜ、ウルカ」


 ウルカに手綱と鞍を付けてから背中に乗り、家に戻った。





ーーーーーーーーーーーーー





 「あれ?誰か来てるのか?」


 裏手にある馬留めに行くと、普通の馬が二頭居た。


 「ただいま~」


 馬留めにウルカを繋げてそのまま裏口から家に入った。


 「おっ?お帰りエル。久しぶりだな」


 「久しぶり───って、何で居るんだ?」


 何故か鎧を脱ぎ、軽装になってお茶の用意をしているレオ兄が居て、驚いた。


 「おぉ~エルが動揺するのは久々に見るな。ここに来たのは、エルと師匠を無事に王都に送るための護衛で来たんだよ」


 「……俺より強い人居るのか?」


 「…………」


 レオ兄は気まずそうに目を逸らした。


 「……居ないのか」


 「いや、剣帝とその一番弟子に勝てる奴居ないんじゃ無いか?」


 「そんなもんか?」


 「そんなもんだよ」


 レオ兄とそんな会話をしながらリビングに行くと、母さんとシルフィ、それにサラ姉が居て、シルフィを膝に乗せてモフモフしていた。


 「ただいま、サラ姉も来てたんだな」


 「あ、お帰りエル君。レオと同じでお師様とエル君、それにシルフィちゃんを王都に送るためよ」


 「護衛としては、心持たないけどねぇ?」


 母さんの鋭い一言にレオ兄とサラ姉は目を逸らしていた。


 「お師様の家族は色々おかしいんです。普通なら私とレオが居たら大抵は何とかなるんですぅ~」


 サラ姉はふてくされるようにシルフィを抱き締め髪の毛に顔を埋めていた。


 「サラ姉とレオ兄は今日どうするんだ?」


 「ああ、近衛騎士団の連中と外で泊まる予定だ。サラはこっちに泊まるらしいぜ」


 「えへへ、よろしくね♪」


 「そういう訳だから、白亜と黒亜に十二人分の料理を作らせてくれるかい?」


 「分かった。二人は俺の部屋?」


 「ああ、エルの荷物を纏めてるよ」


 片手を挙げて了解の意志を伝えてから自分の部屋に戻り、そこに居た二人に母さんに言われた事を伝えた。


 「畏まりました。ご主人様のお荷物は纏めておきましたので、確認をお願いします」


 「分かった、ありがとうな」


 二人は頭を小さく下げて部屋を出たので、荷物を確認した。


 この日の夕飯は人数が多く、賑やかで楽しい一時だった。

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