刺すしかないな

刺すしかないな

わたしは思う

深く刺すしかないな

それ以外に救いの道は無いな

刺すしかないな

はあと溜息をつきながら

それでも他の選択肢は思い浮かばないな

みんなが笑って暮らせる世界

それが理想だった

だが理想は現実とは異なった

刺すしかないな

がっかりだ

本当に

こんなことしたくなかった

信じてもらえないかもしれないが

わたしは誰かを刺したりなんてしたくなかった

今頃、虹の橋を渡っていてもおかしくはなかった

そんな未来に生きていても不思議ではなかった

だが実際にはわたしは深く刺していたし

その相手は醜い呻き声をあげていた

前のめりに倒れていく姿を見つめるその瞬間だって思っていた

ああ

どうしてこうなってしまった?

誰も悪くはないだろうに

そいつだってただ与えられた役割を演じただけなのだ

どれだけ愚かだとしても

その役割を上手に演じただけなのだ

最初から全て決まっていた

運命は脳の中に詰まり

思考回路は蝕まれていた

空はとてもよく澄んでいた

刺すしかないな

わたしは思った

恨みっこなしにしような

明日の朝にはわたしが刺されていてもおかしくないから

正義の旗が風に揺れ

うつ伏せで顔も確認されず死んでいるかもしれないから

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