第7話空飛んだら、この際何でもいいかな
無事、犬を仲間に引きずり込んだけど、その後の予定としては、まだサルとキジが残っている。
もっとも、桃太郎の感覚では、犬は仲間にはなっていないだろうけど……。
しかも、桃太郎を狙う狼に見えているかもしれない。
ちょっと体つきが良くなったけど、相変わらず痩せている犬に怯える、桃太郎。
でも、桃太郎よ。覚えておくがいい。
真の協力者とは、それを気づかせないものを言うのだよ!
って、完全に受け売りだなぁ。
でも、本の知識がこんなところで役に立つなんて、本当に知識は身を助けるとは、よく言ったものだ。
それにしても、話し相手がいないというのは、本当に寂しい……。
あれから犬は、満腹になると話し相手にもなってくれない。胃の中で増えた僕は、僕同士で満員電車状態になっているのに……。
でも、空腹になるとやたら饒舌になる。
まったく、現金な奴だ。
それでも、僕もそれを楽しみにしているのだから、結構ちょろい奴だと思われてる事だろう。
しかし、暇だ。
なぜか桃太郎は、黙々と歩いている。犬も黙ってついて行っている。
客観的にみると、どう見えるのだろうか?
そんなことを考えるくらい、暇だった。
そう、とりあえず、話し相手が欲しい。
鬼を倒すという最終目標が、実はそれぞれ違っている状況を先ず変えたい。
でも、桃太郎は、なぜ鬼ヶ島に向かっているのだろう? 目的はなんだ? ひょっとして、単なる家出か?
犬の目的は『きびだんご』だ。
シンプルでいい。
飢えないというものが、生命にとってやはり究極の目的なのかもしれない。
そういえば、奴隷制度もそんな感じだったな。
生かさず、殺さずか……。
ああ、なんだか自分でやってて、情けなくなってきた。
桃太郎は、いわば英雄と仲間の物語のはずなんだ。
忠義のイヌ。知恵のサル。勇敢なキジ。
この仲間と力を合わせて、強大な敵を打ち倒す。
強い信念。共通の目的。互いの協調。
こういったものが自然と学べるから、子供から大人まで幅広く愛される物語になっている。
でも、何だ? この物語?
目的はあいまい。
協調性なし。
仲間なし。
全くいいとこなしじゃないか!
でも、それも自分でやったことだ。
それしかなかったとは言え、若干後ろめたい……。
いや、サルだ。ここはサルに期待しよう。
本当は、次にサルを仲間にしておきたい。
この現状を打開するための相談がしたい。
でも、サルって一体どこにいる? 野良犬はよく聞くけど、野良猿ってのは、聞かないよな?
そもそも、サルってのは、群れ社会じゃなかったっけ? 一人でいるはずないじゃないか!
あーもう、いいや!
でも、もうこの際、順番はどうだっていい。
トリ! サル!
もう、トリであれば、何だっていい。
ただ、ニワトリは飛べないから却下。さっきから後ろをついてきてるけど、却下。
お腹がすいているのか、僕が落ちてくるのを待っているのか、何処から来たのか、このニワトリは、さっきから桃太郎からついて離れなかった。
桃太郎は桃太郎で、迷惑そうな顔をしている。
もしかして、自分が盗んだと思われるからか?
何処の世界に、盗んだニワトリをつれて歩く奴がいる?
大方、桃太郎は犬がニワトリを食べないのが不思議なのだろう。
残念でした。犬は、この僕で満足している。
そう言えば、桃太郎。
君も失礼な奴だったな。色々桃太郎に食べさせようと努力したけど、結局無駄に終わっていた。
どれだけお腹がすいても、この僕を食べようともしないなんて!
しかも、まちがって口に含んだ時に、すぐ気が付いて吐き出すなんて、あんまりだ。
どんだけ『きびだんご』嫌いやねん!
もはや、ツッコミも堂に入ってきたころ、ようやく翼をもつ飛ぶ生物に出くわした。
ニワトリはさっき、犬の胃袋に収まっている。
あれ?
でも、よく考えたら、僕が俯瞰的に見えるから、飛べる必要ってなくていい?
ああ、さっきのニワトリでよかったんだ……。
トリ!
チャンスの神様は、前髪しかないってよく言ったものだよ……。
今更後悔しても、犬の胃袋で対面しても、取り返しはつかないんだ……。
目の前の翼をもつ生物……。これははたしてトリと呼んでいいのだろうか……。
夕暮れの中、目の前を飛んでいるコウモリ。
さて、哺乳類と分類されているものを、無理やり知らんふりして鳥類にしてしまおうか?
いやいや、それはやっぱり無理がある。
ああ、こんなに悩むんだったら、やっぱりさっきのニワトリに食べられとくんだった……。
「ああ、お腹すいたな……」
桃太郎の悲痛な叫びが聞こえてきた。
少しずつ、体つきが良くなっている犬に比べて、相変わらず、桃太郎は貧弱だ。
ていうか、一番『きびだんご』食べてほしいのは、お前だ! 桃太郎!
夜の闇が深まる頃に寝て、太陽の光を浴びて起きる。
そして日のあるうちに歩き、闇に隠れて寝る。
そんな日々が繰り返えされていく中、相変わらず犬を警戒する桃太郎。
そして、サルもキジもニワトリも、全く出会わない日々が続いていた。
「そんなにトリがいるのか? もうすぐ人里に下りるから、ニワトリを捕まえようか?」
「いや、そんなことしたら、この桃太郎が村人に殺される」(799)
沈黙が、同意の証だということはよくわかった。
ていうか、僕に飽きたのか? 犬!
「まあ、トリはうまいから分かるが、何故サルがいる? あいつらはなくてもいいだろ?」
「まあ、実際何でもいいのかもしれないけど、一応裏鬼門としては、サルは欠かせない。それより、今度はトリ味もできるけど?」(798)
「おいおい、それを早く言ってくれよ。この間から、あの味が忘れられなくてよ!」
やっぱりそうだ。この犬め!
忠誠心の欠片もない。
人里に入り、駆け足で村を駆け抜ける桃太郎。
どんだけ、人とかかわるのが苦手なんだ……。
そして、今度はニワトリじゃなく、スズメが後ろをついてきた。
チャンスの神様! 今度こそ前髪をつかみます!
こうして、犬にスズメを食べないように説得しつつ、全部で五羽のスズメをのせた犬が出来上がった。
「あの犬、よっぽどトリに好かれるんだな。人肉の味が忘れられないっていうやつか?」
ダメだ、この桃太郎。
被害妄想が半端ない。でも、こんな桃太郎でもリーダーとして動いてもらわないと……。
一応、忘れないように考えておこう。
鬼を退治する。これが最終目標。これを忘れたらだめだ。
すぐに、目先の仲間集めが目的だと考えてしまう。仲間を集めるのは手段。目的じゃない。
鬼退治の現有戦力は……。
桃太郎は役に立たない。でも、チームリーダー。本人の目的は不明。
野良犬は少しずつ体が立派になってきている。現時点での最高戦力かもしれない。一応最低限のお願いは聞いてくれる。
五羽のスズメたち。
自分達の話で盛り上がっているだけで、こちらの言うことを聞いてくれない。でも、しっかり『きびだんご』は要求してくる。ただし、味付けはなしが好みらしい。
たまに、ハトにいじめられてるのを、犬が守る関係が出来上がっている。
スズメのナイト、野良犬。
だめだ……。何一つとしていいことがない。
いや、スズメたちと野良犬は少し仲良くなっている。この調子でサルが加われば……。
ていうか、野良猿! どこにいけば会えるんだよ!
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