希望かな。

紀之介

…去年の惨状を忘れたの?

「茜ちゃんは…バレンタインのチョコ、手作りするんだって!」


 デートで繋いでいた手を、琴音さんは軽く引っ張りました。


「だから、私も。」


 隣を歩いていた、宏和君の表情が歪みます。


「ダーメー」


「えー 何でぇー」


「…去年の惨状を、忘れたの?」


「い、一生懸命、作ったのに!」


「手作りチョコに必要なのは…結果なんだよ?」


「ひーどーいー」


 琴音さんが膨らませた頬を、宏和君は指で突付きました。


「作った本人にも食べられなかったものを…一口とは言え口にした人間に、そう言う事 言うかな」


「ヒロは…私からのバレンタインチョコ、欲しくないの?」


「…普通に食べられるチョコが希望かな。」


----------


「別に、市販のでも…」


 宏和君の言葉を遮るように、琴音さんは突然立ち止まります。


「…分けてもらう事にする!」


「は…?!」


「茜ちゃんにお願いして…チョコ、少し多めに作って貰えば…」


 繋いでいた手を引っ張られる形で、軽くつんのめる宏和君。


「琴ちゃん…」


「なぁーに?」


「─ バレンタインチョコが、他人の手作りと言うのは…どうなんだろう」


「茜ちゃんは他人じゃない! 私の親友なんだから!!」


「いや、そう言う問題じゃなくて…」


「…じゃあ、ママに作って貰う」


「えーと、琴ちゃん?」


「ママを、他人だって言うつもり?!」


「だから…そう言う事じゃなくてね。。。」


----------


「…落ち着いた?」


 隣に寄り添って背中をさする宏和君に、琴音さんが頷きます。


「んー」


「どうして…手作りに拘る訳」


「うー」


 琴音さんは、唇を噛みました。


「─ 彼氏チョコが市販品なのは、負けた気がする」


 背中をさすっていた宏和君の手が止まります。


「じゃあ…チョコ、作れば?」


「え? 良いの!?」


「…僕が手伝うよ」


「ヒ、ヒロは…作れる人なの?」


「経験はないけど、多分 琴ちゃんよりはマシ」


 再び背中をさすり始る宏和君


 その手から、琴音さんが逃げます。


「わ、私の方が…ちゃんと作るれるんだからね!!」


----------


 バレンタイン当日。


「はいヒロ。ハッピーバレンタイン♡」


「─ 結局作ったのは、僕だけどね。。。」

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希望かな。 紀之介 @otnknsk

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