0215


三十六度の身体を操縦し

おれ今、鮭弁当を頬張ってるわけなんだけど

突如、気付いたわけだ

(あ………おれって生きてる価値ないな)

って

だからと言って今すぐ死ぬわけにもいかない

取り敢えずおあずけにしておいた口内のもぐもぐを再び再開した

再び再開したんだよ

何か文句あるか?

そのもぐもぐに精彩が無いように思われるのは

指が痺れてるから

インターンとか言う、要は新しい仕事の研修期間中に

おれ

職場の建物を案内されて

防火扉に指が挟まった

「うぎゃあっ」

限りなく悶絶

そのせいで未だに指が痺れる

歩いてる時とか腕の振り加減によってびりびりするのを発見したよ

結局、その会社もすぐ辞めちゃったし良いことない

そこの部長さんがこんなこと言ってた

「多分、きみは違うんだろうけど………」

って前置きして

「あのねえ、研修だけしてすぐ辞めちゃう人がいるんですよ、お金は一応、出ますからね。研修なんて主に話しを聞いてるだけですから、そういう人は業界内でブラックリストに載せて連絡を取り合っているんですよ」

「あ、そうなんですか」

それ以外に何か言うことあるか?

まさか自分もそうなんてな

まあ起こってしまったことは仕方がない

忘れて新しい一歩を踏み出さなくてはな

ああ指が痺れる

その会社を辞めて十日ぐらい経つけどまだ痺れるや

こないだ接骨医に行って来た

院内は狭くて全国大会に出場して勝利してやったねの集団ピース写真のパネルが飾られてた

なんのスポーツだろうか………見たこともない奇妙な格好

おれは人差し指に貼られた湿布の上から電流流されて

電流流されて

何か問題あるか?

意味が被ってる?

会社に出社みたいな?

バカ?

アホ?

クソニート?

そんなおれが電流流されて治療室の端っこで放置

慌ただしく目の前を行き来する看護師たち

おれ、忘れられてるんじゃないかなって一瞬、危惧

見たこともない怪しげな器具に取り囲まれて不安

もしも指の神経がイカれてて後遺症が残ったりしたらどうしようとか

不安も募る

「嘘おっしゃい、あんた、ほんとに募ってたのかい?」

頭の中の江戸後期のおばちゃんが問い掛けて来る

おれは言う

「募ってる、神に誓って募ってる」

忘れ去られたおれの元へようやく看護師がやって来た

「あ、居たの?」

それはない

さすがにそれはフィクション

実際の人物、団体とは一切、関係がない

「はい、結構ですよ」

そう言われ電極を外された

良くなってるのかどうかよくわからないおれ

医者は興味なさそうに帰院を促した

だから千五百円、払ってそこを出た


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