第2話 命より噛むか噛まないか

 長身の男は、闇のオーラを出しながら薙刀を構えている。なんて殺気に満ち溢れているんだ… 今はこちらを見ていないから平気だが、全く安心は出来ない。ここは障害物が一切無いからだ。アイツが後ろを振り向いたらもう終わりだろう、こんな奴が襲ってこない訳がない!


 いきなりこの別世界のような所に飛ばされてかなり戸惑っているが、今はそれよりもアイツをどうするかだ。幸いここは霧がかかっていて、もう少し離れれば見えないだろう。それならば物音を立てずに逃げるしかない。そう考えた瞬間、血の気が引くのが感じられた。


 …あいつがこちらを振り向いてきたからだ!


「別に襲ってこないんじゃないか?」なんて考える隙も無く、僕は反対方向に猛ダッシュ。まあ普通考えてみれば、長身の男は僕よりも素早さのステータスが高いだろう。そう気づいた時には、薙刀を持った男がすぐ後ろまで迫ってきていた。


「…ブラインドネス・プリズン」


 男がそう言うと… 特に、何も起きない?不発ならそれでいい。ダッシュのスピードを更に上げると、


「ゲハッ!!」


 変な声が出てしまった。頭がヒリヒリする。何かにぶつかったようだけど…前には何も無い。今確かに壁にぶつかったんだけどな。前に手を伸ばして見ると、やはり壁がある。見えない壁…?


 どちらでも少し考えると、先ほど男が唱えた魔法の名前を思い出した。「ブラインドネス・プリズン」。名前と状況から推測するに、恐らく透明な壁で相手を覆う魔法なんだろう。男は…すぐそこに立っている。もう僕は、攻撃されない事を願って立ちすくむしかなかった。心臓がバクバクと拍を打っている。急なダッシュから来たものなのか、今の緊張から来るものなのか。そんなことはどうでもいい。


 暫く沈黙が続いたが、男は口を開いた。


「私はこの時空の狭間の番人、ディエルだ… 貴様は何故ここにいる…」


 想像通りの低い、恐ろしい声だ。番人…? もしかして、ここは悪の組織のアジトか何かか!?時空の狭間って何だっけ…聞いた事はあるが…  とにかく、答えなければ殺されるかもしれない。


「いつも通り寝て、起きたらここにいました…」


 この状況で、何とか噛まずに言えたぞ!


「そんなことはあるまい。ここは時空の狭間だ。異世界に移る際に通る世界だ… 現在、ほぼ全ての者は世界を移る事が禁止とされている。」

「し、知ってますよ」


 え!?異世界にいくの禁止だったの!?勢いで知ってるって言ってしまった…


「それに伴い異世界に移るためのワールドストーンは全て効果を消している… それなのに何故お前はここにいる!」

「そんな事言われても…」

「侵入者を排除するのが番人の使命だ。」

「ひぃ!!」


 ヤバい!僕が悪い奴扱いになっているのか!?檻に囲まれているから逃げられない!


「覚悟しろ!!」


 薙刀に例の闇のオーラを纏わせて振りかざして来た瞬間、10m位ディエルが吹っ飛んだ。誰がこんなに吹っ飛ばしたんだよ!


 先ほどまでディエルが立っていた場所には、長い灰色のスカーフと黒い鎧を付けている一人の青年がいた。

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