3回まで死ねる

 1回目は好奇心だった。死ぬというのがどんな感覚なのか、経験してみたくなった。だから僕は何の躊躇いもなく、3回の内の1回を使ってしまった。


 選んだのは転落死だった。手軽に行えるし、何より惹かれるものがあった。高いところから着の身着のまま舞い落ちるというのは、人類の夢である空を飛ぶことと同義だ。それを味わうことができると言うのだから、この死に方を経験せずしてどうして死ねようか。


 時間にして数十秒。最大の自由を味わった後、体は激痛にひしゃげた。これが死というものかと雑に人生を悟ったところで、気が付けば体はもとに戻っていた。


 2回目は我慢の限界だった。一度手を出した薬物のように、死の快楽は堪らないものだった。そして何より、友人達の会話についていく為にも、それは必要なことだった。


「マジ?お前爆死したの?え、どんな、どんな感じだった!?」


「すっげ!体バラバラんなったんしょ?最高じゃん!」


 より驚くべき、より恐るべき。そんな死はステータスで、憧れの的だった。僕の選んだ死に方は比較的メジャーな死に方だったので、大した話題にならなかった。それが僕には、耐えられなかった。


 死ぬことよりも、耐えられなかった。


 選んだのは心中だった。恋人のアイとドラマを仕立てて、甘美な死に溺れた。ノンフィクションだからこそ、その死には意味がある。感動的な死に方をした僕らは一躍有名人となり、死という娯楽に心中はブームとなった。


 3回目は突然だった。人気テレビ番組のデスゲームに参加させられ、同じような若者達と命の取り合いをすることになった。今回は全員、既に2回死んでいる者が集められた。だからだろう、視聴率は異常な伸びを見せた。今度死ねばもう生き返ることのできない緊張感は、あまりに刺激的すぎるスパイスだった。欺し欺され、恨み恨まれて、僕らは最高のエンターテイナーとして命を散らしていった。


 デスゲームも終盤に差し掛かり、生き残っているのは僕を含めて4人となった。どこかで見たことのあるようなマスコットが、陽気な口調で残酷なことを言う。その言葉に発狂する者、高笑いする者、平静を装う者、狼狽える者。まるであらかじめ役を決めていたかのように、僕らは最高の物語を演出した。やがてデスゲームを操っていた黒幕が暴かれ、ハッピーエンドで物語は幕を閉じた。


 黒幕は僕だった。


 見るも無惨な死に方を強要された僕は、あったかもしれない4回目の人生に思いを馳せた。こうして命尽きることを、酷く残念に思う。


 だけど。


 

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