蕩揺劣等
「それじゃ、またいつか」
それだけを残して、彼はバスを降りた。残された僕らはただ、その背中を見送った。
「しかし
「そう言ってたよ、もう会えなくなるかもしれないな」
「海外ともなればね。寂しくなるなぁ」
「仕方ないじゃない、両親の都合みたいだし。本人も向こうで夢を叶えたいって言ってたし。きっとまたいつか会えるよ」
「そうだね」と笑いながら、僕ら四人は口を揃えて光弘との別れを惜しんだ。昔からずっと一緒だった僕らは離れ離れになることなど、まるで考えていなかった。
「それじゃ、私ここで降りるから」
「まじか。それじゃまたな」
「体、大事にしてね」
「言われなくても分かってるって。みんなも元気でね」
そう言って彼女は、バスを降りる。一人降りただけで、バスの中が酷く広くなった。その広さが、僕らの寂しさに拍車をかける。
「すげーよな
「すごく頑張っていたからね。親友として鼻が高いよ」
「比奈子もアメリカかぁ・・・いつか会えるといいけど」
とても遠くへ行ったしまったと。そう感じた。それは単に距離の話ではなく、繋がりが薄れていくような。そんな心の距離を、感じずにはいられなかった。
「さて、と。悪いけど今度は俺の番みたいだわ。二人とも元気でな」
「ばいばい、無理しすぎないでよ」
「頑張ってな。折角夢を叶えたんだから、楽しんでこいよ」
「もちろんだ。またいつか会おうぜ」
僕の親友がまた一人、バスを降りた。外は真っ暗になりながらも、バスは走り続けている。
「
「ホントにな。全く、どいつもこいつも勝手に大人になりやがって」
「・・・寂しいの?」と聞く彼女に、僕は「・・・・・・・ああ」と。それだけを口にした。
二人だけになったバスの中で、沈黙だけが鳴り響いた。彼女に伝えたい言葉があったけれど、臆病な僕は何も言えなかった。気が付いたらバスは止まっていた。
「ごめんね。私、ここで降りるよ。お嫁にいくことになったから」
「・・・・・そっか。どうか、幸せに」
「ばいばい、
「バイバイ、
気が付けば、一人だった。僕だけが、いつまで経ってもバスから降りられないまま、月日が流れていった。
バスは今もなお、止まる気配はない。
バスは、僕は。
一体、何処まで往くのだろう。
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