運のいい少女
「ツモ。8000・16000」
本日3度目の役満をツモられ、僕は頭を抱えた。いや、頭を抱えているのは僕だけじゃない。下家も対面も頭を抱えている。オマケにその役満がマンズの
僕が8連敗しながらもこの卓に残っているのは負けず嫌いだからではなく、単純に彼女に興味があったからだ。雀荘に女性が来るだけでも珍しいというのに、若くて美人ときてる。だから少しくらい話をしてみたいと思う僕の気持ちは、分かってもらえるだろう。
「
僕がそう聞くと彼女はつまらなそうに「先週」と答えた。それを嘘だと思った僕は「まったまた〜」と言ったのだが、どうやら彼女は本気で言っているらしかった。
「先週始めたのに九蓮とか・・・初めて見たよ。新羅さんって神に愛されてるのかもね」
「・・・運がいいってね、人生がつまらなくて大変よ」
「ふーん、僕からしてみれば羨ましい限りだけどね。贅沢なことを言うんだね君」
「・・・あなたなんかに私の気持ちは分からないわ。今回だってそう、何か変わるかと思って麻雀を始めてみたけど、何も考えなくても勝っちゃうわ」
彼女はそっぽを向きながら僕に言う。その瞬間を狙って僕はあることをする。
「あっそ。じゃあさ、ちょっと勝負をしようよ」僕がそう言うと彼女は「勝負・・・?」と、こちらを向きながら言う。僕は彼女の手牌を自分の手元に引き寄せ、それに牌をひとつだけ入れて、それをかき混ぜた。
「この14牌の手牌の中から、ピンズを引いてみて。ピンズを引けたら君の勝ち」
そう言うと彼女はまたうんざりした表情をする。多分今まで似たようなことを何度もされてきたのだろう。だから彼女は投げやりに、躊躇することなくひとつの牌を選んだ。まるでピンズを引き当てるのが当たり前であるかのように。が、しかし。
「・・・・・え?」と、彼女は驚く。彼女が引いたのはマンズだった。「そんな、どうして・・・!?」と驚愕する彼女を前に、僕は伏せた牌を全て表にした。
そこにあったのは、13牌のピンズだった。
「実はこれ、君の手牌じゃなくて僕の手牌なんだよね。君がそっぽ向いてる時に入れ替えたんだ。僕はピンズの染め手をやってた。そこにマンズをひとつ入れたんだ」
「・・・なら、私の運の良さは変わらないわ。14牌の中で唯一の牌を引いたんだから」
「いや、僕は『ピンズを引いて』としか言ってないよ。『ピンズを引いたら君の勝ち』って」
「・・・・・・・・」
僕は笑って言う。
「こんなにピンズがあるのに引けないなんて、君、運が悪いんだね」
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