シュノルレインの夜
『ああ、なんてこと!まさかあんなことが現実に起こるなんて!』
金色の髪をした少女は大きな本を抱いて座っていた。見つめる先には広大な海が広がっていて、少女はその向こうに行くことをずっと夢見ていた。そう、昨日までは。
興奮を抑えきれない少女は、今もなお心臓が高鳴っている。いつまでも収まることのない感動は、自分がどれだけ狭い世界を生きていたかを痛感する。
『昨日私たちに奇跡が起こったの!それはとてもとても、不思議な出来事だったわ!』
愚かな大人達は決して信じることのない昨日の物語を、少女はもう一度思い出す。
「大人達は、私たち子供を船に乗せてくれないらしいの!」
丘の上で星を眺めていた、4人の少女のうちの一人が、そう声を荒げた。その言葉に他の少女達も次々に不満を漏らす。「きっと大人達は自分たちだけで、クジラを見に行くつもりなのよ!」と言ったのは、あの金髪の少女だった。
この海の向こうには光り輝くクジラがいると、少女の大切にしている大きな本には書かれていた。いつか船に乗ってそのクジラを見に行くことが、少女達の夢だった。だからこの日はこうして、大人達に対する不満を吐き出すために、夜遅くに集まっていたのだった。
その時、大きく風が靡いた。ゴウ、という音と共に、少女達の視界を何かが遮る。一体何が起こったのかと起き上がると、少女達のいる丘の上に美しい翼を持った大きな生き物が舞い降りた。その生き物は地に足をつけると光を放ち、人の姿を成した。呆然とその出来事を眺めていた少女達は戸惑いながらも、その姿に声をかけた。
「あなた、空を飛べるの?」そう聞くと男は頷いた。「私は竜人。古より人々の願いを叶えるために空を舞う。汝らの願いは何だ?」と彼は、少女達に問いかけた。
「私たちをあの海の向こうに連れて行って!」と、少女達は迷いなくそう答えた。すると竜人は「承知した」と言いながら、再び翼を持った竜の姿になった。
少女達はその背中に乗り、空を舞う。あまりの出来事に少女達はただただ感嘆の息を漏らすばかりだ。『すごい!すごいすごいすごい!あんなにも恋い焦がれていた海の向こうへ辿り着けてしまうなんて!空を飛べるってなんて素敵なの!』
星の瞬きがあるとはいえ、夜の海は暗い。だがその闇の中に、キラキラとした輝きがあった。それが少女達の探し求めていたものであると気付くのに、時間はかからなかった。
「クジラだわ!あれが本に書いてあった、光り輝くクジラなのよ!なんて美しいの!」
叫ばずにはいられない。少女達は歓喜に震えながら、その光景を眺め続ける。
『大人達はそんなものいるはずないって言ってた。だけどやっぱり、私たちが正しかったんだわ!大人達はいつも、嘘ばっかり!』
おとぎ話のようだけれど、これは本当にあった、かつての物語。
少女達が出会った、とある夜の、奇跡の物語。
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