三回目の

 俺は今、親友とジャンケンをしている。いや、させられている、と言った方が正しい。別にしたくてやっている訳ではない。そもそも誰が好き好んでジャンケンなどするだろう。


 命を懸けた、ジャンケンなんて。


「負けた方には死んでもらうとしよう」


 何処かの金持ちが俺たちを連れてきて、こんなことをさせている。理由があるわけではない。ただ人生のひとつの余興として、俺たちの姿を見て楽しみたいようだ。人間、ここまでしないと楽しめないなら、もう終わりだろう。しかし実際に終わってしまうのは俺か、もしくはあいつなので、そんな人種になんと毒突こうが意味がない。俺たちはただ生き残れる僅かな望みに懸けて、ジャンケンをするしかなかった。


「だたし、三回連続であいこになった時は、二人とも助けてやる」


 本当かどうかも分からないその言葉を信じて、俺たちは喘ぐようにジャンケンの儀式を交わす。今になってようやく「最初はグー」を不思議に思った。おかげで汗でじっとりと湿った俺の手は、グーの形を崩せなかった。「最初はパー」なら他の何かを出せただろうか。


 一回目はお互いにグーだった。どうやら向こうも俺と同じで、手を開けなかったようだ。このままお互いグーを出し続ければあいこを繰り返せるが、果たしてあいつは分かってくれるだろうか。俺も手汗が酷くて、グーしか出せなかったことを。


 ・・・・・ま、そんなこと考えるだけ無駄か。


 そして二回目のジャンケンで、俺たちはまたもグーを出してあいこになった。こうなればもう言わずもがな「三回目もグー」という意識がお互いに芽生える。勝ちを確信した俺たちだったが、俺たちにこんなことを強いている男が、それを見てこう言った。


「次はグーを禁止にする。そして勝った方には1億円をやろう」


 俺たちの友情を試したいのか、男はそんな提案をしてきた。グーが禁止と言うことはつまり、出せるのはパーかチョキだが、あいこを狙うなら俺たちはパーを出すのが当然だ。しかし1億円という褒美を出すことによって、向こうはチョキを出すのではないか、という心理を生まれさせた。挑発とも言えるその提案だったが、俺たちは戸惑わなかった。


 むしろその言葉で、俺たちの心は完全にひとつになった。


 そしてジャンケンが始まり、俺たちは。


 三回目の、


「・・・・・なんのつもりだ?」


「「むかつくから出した。それだけだ」」


 なんでもかんでも、自分の思い通りになると思うなよ。


 俺たちの友情は、


 たとえ死ぬことになっても、お前なんかにゃ崩せねぇ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る