捻れた時空と人間関係
俺が最も嫌いな男、石上アキラが、明日死ぬ。そのことを、俺だけが知っている。
理屈は分からないが、どうやら俺はタイムスリップしたらしい。今日は10日のはずが、8日に戻っている。そんな訳で俺は昨日、もとい、明日のことを思い出していた。
街を散歩していたら偶然にも石上とすれ違った。休日に外に出てきたというのに、いきなり最悪な気分にさせられたのをよく覚えている。向こうも俺をこの世で一番嫌っているから、同じことを思ったに違いない。だから俺たちは何も見なかったかのように振る舞った。本来ならそこで話は終わりなのだが、その時ばかりは終わらなかった。振り返ると石上が車に轢かれる瞬間だった。死んでいると確信できる無残な死に方だった。
その現実を理解した時、残念なことに俺は喜んでしまった。この世で最も嫌う男が死んだのだ。人が死んで喜ぶことがどれだけ間違っているかは重々承知だが、多分その時の俺は笑っていたと思う。しかし気が付けば時間が巻き戻り、石上が死ぬ前に戻っていたのだ。
俺は再び、事故の現場にやってきた。大抵こういうのは助けるために時間が巻き戻るものだが、俺はそんなつもりでここにやって来た訳ではない。石上の死に様を、より良いアングルで見ようと思ったからだ。我ながら最低だが、それくらいに嫌いなので仕方がない。
やつが交差点に差し掛かると、あのときと同じように車がやってきた。それを眺めていたその時、何かが俺の中で暴れ回った。それを制御できなかった俺は、気付けば石上に向かって走り出していた。俺を見て一体何だと驚く石上を無視して、俺は石上の体を突き飛ばした。その瞬間目の前で車が通り去り、石上は俺に命を救われたことを理解した。
「お前、どうして助けてくれたんだ?」
「・・・お前なんか轢いたら、車の運転手が可哀想だろ」
なんとなく、助けなければならない気がした。だが素直になれない俺は、そう言い残して逃げるようにその場から走り去った。
それから数ヶ月が経ったある日、街を散歩していたら上空から鉄骨が落ちてきた。気付いたときには既に遅く、逃げられないと悟った俺は死を覚悟した。その時。
横から激しい衝撃を喰らい、俺は吹き飛ばされた。見れば、そこにいたのは石上だった。
「お前、なんで」と問うと、石上は「・・・助けなきゃいけないような気がしたんだよ」と、俺よりも随分素直に答えた。気が付けば俺たちは手を取り合って立ち上がっていた。
・・・・・それから数年後。そんな昔の話を、俺はアキラと酒を飲みながら語り合う。
「しかしまさか、お前が俺の人生で最高の親友になるなんてな」
「あの時俺がお前を助けてなかったら、俺も鉄骨に押し潰されて死んでたんだろうな」
世界一嫌っていた者同士が、気が付けば世界一大事な友人同士になっていた。
全く、一体どんな風に時空が捻れたら、こんな未来があったって言うんだか。
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