目の色を変える

 その日の私の目の色は赤だった。私はそれを見て、どんよりとした気持ちになる。


 私は日によって目の色が変わる。中学生くらいの時からその現象は起こり始め、大学生となった今もなお続いている。自分の目の色など、普通に生活していれば見ることはないので、特に問題ない。カラーコンタクトを入れれば周りにバレることもないので、色が変わること自体は別にいい。問題なのは、色によってその日一日の出来事が分かってしまうということだった。私が赤色の目を見て憂鬱になっているのは、それが原因だった。


 赤色は決まって、何かよくないことが起こる前兆を示していた。逆に青色は、何か良いことが起こることを教えてくれる。緑色は「何か忘れていることがあるので思い出せ」という合図で、黄色は「友達が困っているから助けてあげろ」と私に伝える。もちろん中学生の頃は、目の色が何を表すかなんて分かりはしなかった。だが10年近くこの現象と付き合っていれば、嫌でも覚えてしまう。便利と言えば便利だが、なんだか未来を決められているみたいで良い気分にはなれない。できればこんな目はなくなってほしいとさえ思う。案の定、その日は車に水を引っかけられるわ、電車で痴漢に遭うわで、散々な一日だった。


 ある日、私の目が紫色と黄緑色に変わった。右目が紫で、左目が黄緑。それは、10年の間で初めて見る現象だった。紫も黄緑も、どちらも初めて見る色で、左右で違う色になるようなことも、今まで一度もないことだった。その現象に、私は戸惑う。何かとてつもなく悪いことが起こるのではないかと、不安で仕方なかった。


 その不安に耐えきれなくなった私は、恋人のコウヘイに打ち明けることにした。まだ誰にも話したことのない私の秘密を彼に話すと、彼は鼻で笑った。「そんな馬鹿な話があるか」と、当然信じてはもらえなかった。だから私は、カラーコンタクトを外して両目を彼に見せた。異常な色をした左右で違う目に、彼は驚く。


「こんな風に目の色が変わるの。色によって、大体その日の出来事が分かっちゃって・・・」


 私がそう説明すると、彼は。


 


 次の瞬間、私は彼に殴られ、気を失った。次に私が意識を取り戻した時、辺りは真っ暗だった。一向にその景色が変わらないことから、私は、両目を失ったことに気付いた。


 警察の人が言うには、私は何者かに両目を奪われたらしい。それを聞いて、私は。そういえばコウヘイは、と言っていたことに。


 コウヘイは姿を消した。私は大学を辞めて実家に戻ってくる。両目を失ったことはけど、もうあんなものに悩まされずに済むと思うと、少しだけ


 今日も何処かで誰かが、世の中に転がっているおいしい話に。


 目の色を変える。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る