回る阿呆
その日は俺の人生史上最も運のない一日だった。部長に怒鳴られて財布落として、スマホを弄ってただけなのに盗撮扱いされて。あのババアめ。誰がお前なんぞ盗撮するか。どうせ盗撮するなら社内一美人の緑ちゃんを盗撮するっての。
そんな最悪な一日を終えた夜、奇妙なRINEが届いた。「一週間の間なれるとしたら、何になりたい?」とかいう、訳のわからん内容だ。普段なら無視しているところだがしかし、その日はそんなこともあって返信してしまった。そのときの俺は苛立ちのせいでどうかしていたんだと思う。その証拠として俺がその質問になんて答えたか、それは、
「トイレットペーパーになりたい」だ。全く、意味不明だ。しかしそのときは「水に流されるだけの存在になりたい」とか本気で考えてしまったんだ。その結果どうなったか。
俺は本当にトイレットペーパーになってしまった。
どこかも分からないトイレの個室に取り付けられている、トイレットペーパーになってしまったのだ。当然喋ることも動くこともできない。ただ自我だけは保っていて、こうして考えることだけが許されていた。意味が分からない。しかし、確かに言えることは、このままでは俺は本当にトイレットペーパーとして使われて水に流されてしまうということだ。
嫌だ!それってつまり用を足した後の処理に使われるということだろう?そんなことされてたまるか!野郎の汚物を自分に拭いつけられる感覚など、想像したくもない!!
そのとき、誰かがトイレに入ってきた。血の気が引いたが、その人物は別の個室に入ったようだった。とはいえ、いつかは誰かが俺のいる個室に入ってくる・・・・・最悪だ。
しかししばらく経っても俺の個室には誰も入ってこなかった。体感では五日くらいが経ったが、未だに俺の個室に入ってくる人はいなかった。これは一体どういうことだろう。
・・・・・まさか、和式なのか!?
和式トイレだから、誰も入ってこないのか!?このご時世に和式で用を足すやつなど、そうはいないはず。一縷の望みに縋り、俺は時間が経つのを待った。だがそんな俺をあざ笑うかのように、俺のいる個室の扉が開かれた。嘘だろう!?何故和式で用を足すんだ!開いているだろう洋式が!いや開いていなかったとしても開くまで待てよ!やめろ、誰かどうにかしてくれ。何故俺が他人のケツを拭かねばならん。文字通りの意味で!!
そいつは用を足し終えて、俺に手を伸ばした。もう駄目だ、俺がそう諦めた瞬間、一瞬にして俺はもとの姿に戻った。どうやらギリギリで一週間が経ったようだった。助かった・・・。
普段の生活に戻ったある日、緑ちゃんと俺を盗撮犯呼ばわりしたババアが話をしていた。
「この前お手洗いに行ったら、突然目の前でトイレットペーパーがなくなったんです」
・・・・・・!!まさか、俺を使おうとしていたのは緑ちゃんだったのか!?
「なんで和式を使うんだよ・・・あ」
「え・・・・・なんで・・・知ってるの・・・・・まさか盗撮!?」
「あんたやっぱり!!」
いや・・・・・違うんです!盗撮じゃないんです!!
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