無慈悲な神様
俺が無罪か有罪かという、実にくだらない話で大人たちが盛り上がっている。あるものは無罪を主張し、あるものは有罪を主張する。俺の命運を決める話し合いであるはずなのに、そこに俺の意思はない。何が楽しくて他人の人生の顛末を、長々と語っていられるのだろう。
もういいよ。俺は疲れたんだ、そっとしておいてくれ。どうして自分の行く末さえ、俺に決めさせてくれないんだ。今までもそうだ。親に名前を与えられて以来、ずっと親の言いなりになって生きてきた。自分を押さえつけて、親が喜ぶように生きてきた。親だけじゃない。友達も、恋人も、他人も。自分以外のみんなが笑って過ごせるように、俺は自分を削って生きてきた。
そんな俺が、唯一自分のために、自分で決めたこと。それを、その結末を、また他人が決めようとしている。俺以外の誰かが決めようとしている。もううんざりだ。頼むから、俺を許してくれ。
「被告人、何か言いたいことは?」
「俺は、何も悪いことはしていない」
発言を許されて俺は語る。身の潔白を。俺は何もしていない。誰にも迷惑をかけていない。だから、こんなことをされる覚えなんて、ない。
「被告人は嘘をついています。彼は多くの人々に迷惑をかけました。多くの人々に、不幸をもたらしました」
ふざけろ、何が迷惑だ。俺からしてみればそいつらの存在そのものが迷惑だった。不幸だった。もう二度と、あいつらの顔なんて見たくない。
「裁判長、判決を」
真ん中の偉そうなやつが、「ううむ」と唸る。俺はそいつに言葉を投げつける。
「俺が何かしたか!みんなのために生きてきたじゃないか!頼むからもう、許してくれよ・・・!」
頼むから、休ませて、くれよ。
「確かに、被告人は心優しい青年であった。しかしな、お前さんと同じ罪を犯した者には皆、同じ判決を下しているのだ。大丈夫、きっとみんなも、それを望んでいる」
俺に、判決が下される。
「被告人を自殺未遂の罪により有罪とし、現世へと送り返す」
頼むよ。
もう死なせてくれよ、神様。
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