第24話 土器土器!マンモス学園 ~史上最古のラブコメ3~


 マンモス学園高等部、第二学年に所属する卑弥呼。

 縄子の顔色を窺いながら廊下を進んでいた。


 もっとも、時代が時代なので、生徒の年齢の証明は出来ないようなものだ。

 周囲の人間の声を聞くのみ。記録もなにもない―――曖昧な周囲を、世界を生きる。


 彼女たちの住む地域の外にも、まったく知らない村や、学校がある。

 イカダに乗って漂着した転校生(?)もいる始末。

 時代は、時は―――邪馬台国の黎明期はじまり

 それは光と闇が入り混じる混沌、そのものであった。

 自分がいま何歳なのか、正確に証明できない生徒の方が大勢である―――。

 


 ―――まったく、素直じゃないンセス。

 登呂くんが縄子ちゃんを意識し続けていたことは、傍から見れば明らかプリ。

 お互いに無神経極まりない性質を持つので、一見してくっつきそうにない二人であることも、確か。

 意識し合っている―――うん。

 意識し合っているのは、確か。

 しかし、それは結局付き合うこととは違う。違う……?

 そうかもしれないンセス。

 でも、よりにもよって果たし状とは―――。何かの間違いである可能性、大きすぎるンセス。




 ――――――――――――――――――――――



「色んなヒトが集まってるのよね、色んな生徒がさあ―――この学園」


「それは―――私のこと言ってるンセス?」



 二人が雑談を全く辞めずに校舎裏へと侵入。

 はたして、その男は校舎裏に鎮座していた―――腰を落ち着けて、座っていた。


「逃げずによく来たな!縄子!」


 ビシっと指を差す。

 マンモス学園トップ4人衆エム・フォー

 その中でもっとも縄子を敵視している登呂とろマサタカ、彼は興奮に上気した表情であった。

 きっとクラス内で調子に乗っている(と、思っている、登呂からはそう見える)縄子のことを締めようとか考えているのだろう―――縄だけに。


「あんたこそ、何のつもりよ、こんなところで!仲間を大勢連れているわけではないことは、まあ認めてあげるけれど?」


 縄子は敵意満々、の目つきだった。

 右目と左目で大きさが非対称な眼のかっ開き具合である。

 眼光ガンつけ放題だ。


 対して地面に座ったままの男……話し合いだけのつもりか。縄子は訝しむ。

 話し合いというか、文句の言い合いをしたいだけだろう。

 縄子からはそういう印象しか抱けない。

 この頃、邪馬台国では腰を落ち着けて、改まった話をすることがちょっとした流行ブームとなっていた。


 戦いはしない、すぐに襲い掛かりはしない態勢である。

 これがのちの土下座となり、日本国内で誠意そのものを表す姿勢ポーズとなる。

 のちに、どころではない千年規模の変化ではあるが。


「まあ待てよ……ちょっとその後ろ! 後ろの女子、離れていてくれないか!」


「はいっ!? いやあ、あのう……」


 登呂が卑弥呼を指ししめす。

 なんで俺は個人ソロなのにお前は連れてきてんだよ。

 普通にお前が卑怯だろ。


 保護者的な立ち位置のつもりでやってきた卑弥呼だったが、それに内心、びくりとしながらも、退避はしなかった―――事前情報を考えると、喧嘩になる可能性がある。

 その場合は誰かが止めに入らなければならない。

 ていうか言い争っている姿が教室でたびたび確認されている……毎度毎度、犬も食わないような言い合いをしているのである。

 いつものことだと、大半の人間は呆れているし、もう何も考えていないが……。



「まずは! これを読んでもらおうかっ」


 縄子の前方に、なにかを放った登呂。それは土をえぐり、縄子の前で停止する。

 石だ、石板だ。

 一瞬、土器かなと思った―――授業で作っては家に持ち帰る、を三日に一回ペースで行っているのだ。


「なによ……改まって」


 困惑。

 男が出したのは木の板に書かれた何らかの象形文字である。

 手元にとって読んでみないとわからないが―――。

 縄子は知る由もない。

 登呂マサタカが取り出したものが、日本最古のレベルの、恋文ラブレターであることを。


 縄子は手に取ったそれが、やはり果たし状の類であると感じる。

 なんのつもりだ、この男。

 いや、開戦のための何かしらであろうと疑わない。

 相手はなんだかんだ言って、調子に乗った荒くれ者ヤンキーに過ぎない。


 

 睨まれた登呂、彼は文章を考えてきたことを正解だと考える。

 いざ対面すると余計なことをたくさん言ったのち、肝心なことを言えない性質なのである。

 端的にコミュ障だった。

 

「なんのつもりよ―――ええと、要するに白黒つけようってハナシでしょ!?」


「おおう! わかってんじゃねぇか!」


 石板を睨む。

 それもダンベルみたいな手紙を、である。

 この時代にはそんなものは存在しないが、全てが重い時代だ、すべてトレーニング器具のようなものである。

 縄子は文字が全く読めない。字が汚いという意味では、なかった。

 

 石板が振動している、縄子も振動している。ブレが激しすぎる。

 ドドドドド……!

 工事現場のような振動音が聞こえてきた。

 否、この時代にそんなものがあるはずがない。

 見上げるほど大きな何かが、動いていることだけは確かだ。


「え」


 縄子は困惑しながら、音の方角を睨んだ。

 登呂も視線をそちらに向ける。

 これでは話にならない。物理的に。


「なんなのよ、近づいてくる……?」

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