第20話 傍から見れば仲が良いか 2
「秋の空が四角くなっている」
この学校の中庭から見える空が好きだった。
好きというよりも……わからないね、毎日通る場所だからね。
どういう感情だろうねこれは。
わざわざ嫌い嫌いなんて、したくはないねぇ、毎日通ると。
厳密には一方に通路があり、コの字だったが。
一度そうやって、
逃げっていうのも印象は悪いな……、ま、リフレッシュといったところだ。
フラットな心境で臨みたいところだ。
私は彼に関して想うところを言った。
「彼に……友達、は出来ないかもしれないね」
だからつい―――言ってしまった。
本心を言ってしまった。
若干の笑顔すら浮かべていたであろう私に対して、目を見開く彼女。
彼女の焦るような息遣いが耳に届いた。
おそらく彼女は、本当なら家くんと話したい、コミュニケーション程度はとりたい。
そう思っているのだろう。
その下相談がてら、私に話しかけたのだということはわかっている。
「そんな―――荒野先生、いけませんよ!今のは!」
厳しい目をした。
「撤回すべきです」
校内で言ってはいけない、使ってはならない言葉です。
ましてや教師が、と捲くし立てる。
「まあ話をしっかり聞いてくれ
コンビニおとこ、それにコンビニさん。
薄めた私の瞼の裏に、雑誌を手に持つ女子生徒の姿が明滅した。
どんな表情をする子なのか、見たことはない女生徒だけれど。
「彼は素敵なものを見つけた。この学校で、とても素敵なものを見つけたよ?」
……だから、これ以上は、つまり―――いらないのかもしれないね?
彼はいっぱいいっぱいなのさ。
心配はいらない。
ただ、それに対して……素敵なものに対して、彼は、どうすればいいかわからないだけで。
ちょっと困ってしまったというだけなんだよ。
眼光と舌端火を吐く女性教師に、私の示すものは果たして通じたか。
彼女は黙って聞いていた。
最初の一言、教育者としては差別的失言ともとれるインパクトを、打ち消せなかったかもしれない。
「とても素敵なものをね」
ふふ、と笑ってしまったのは照れ隠しではある。
照れるのは、日が眩しいから―――だけだろうか?
あの男子生徒に、これ以上に友達などいらない―――入り込む隙間はないのだ。
すくなくとも今はね。
そういう現象で、現実なのだ。私はこの時点では考えている。
その二人がこれからどうなるかなんて、当然わからないことだらけだけど。
先生は敵意を秘めたような目で私を見つめていたが、黙って聞いてくれた。
意見を聞いてくれた。
そして少しばかり口を引き結びなおした。
困った表情の末、窮余の声を上げる。
「荒野先生まで……、私を馬鹿にするんですかぁ?」
と、言った。
うんんー?
そんなことはないがねぇ?
なんでだい?
「もういいですっ!」
ザッザッ、と中庭の土の音を鳴らしつつ彼女は。肩をいからせて歩いていった。
ぶつくさと、「彼以外にも問題児だったらいるんですからね!」とかなんとか言いつつ―――、まあ、そりゃあそうだろうね。
悪いね……生徒の秘密をすべて正確に話すことはできないのだよ。
そこらへんはあなたも同じでわかっているはずだ。
大変だな。
私も大変だった。
なあに、悪いことは起こっていないさ。
起こっていない、怒ってもいない。
不意に周囲を見回す、疑問符を浮かべ立ち止まる生徒たちの存在を認めた。
ホラホラ、見せ物じゃあないんだよ。
それとも、そんなに見たいかい?
こんなおじさんを。
生徒たちは、どうすればいいかわからずに、それでも目を逸らした。
彼らは彼らで、薪田先生が苦手な若手らしい。
「女性の機嫌を取るのは、難しいねえ……」
それだけの話であると言い張り、苦笑しておいた。
周囲も少し釣られて同調は、してくれた。
それが草むしり程度の難易度であれば、人生の八割ほどは楽になるだろうね。
四角い空を見上げる。
そういえば秋の空だった。
これから、家くんはどう過ごすのか定かではないが。
先生と仲良くするというのは、まあ誰でもいいというわけではないだろうな。
環境係の活動で話した経験から、家くんはどんな人間とも上手く
とはいえ、先生が家くんを心配する心境も、わからんではない。
彼に心を配る者もいるだろう。
担任の先生は、また別にいるのかもしれないが……。
私は、心配より信頼だがねえ、ここまで話してくると。
涼しい風が通り、目を細める。
再び瞼の裏を見る作業に映れば、コンビニでマンガ談議している、わが校の男女の姿が見えた。
女生徒の方はもちろん、男子———家くんの表情も、上手く想像することはできなかった。
どんな
「良い
群具煮の。
マンモス学園の。
ええと、あとはマガンジー……?だったか
他にもたくさんの物語に囲まれている。
定年が視野に入った私のような人間には、いささか追いつかないスピードの話題。
それに包まれた二人。
たくさんの、若く楽しい時間。
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