第8話 土器土器!マンモス学園 後半

 縄子ジョウコ文次モンジ

 その姉弟の頭上に迫る影。

 天から声が降った。


「フフフ、今日もすがすがしい一日だなぁもし」


 二人を見やる。

 二人というよりも、その他大勢の生徒すべてを、見下している。


「おや、庶民共、いたのか。米粒のように小さいから見えなかったぞょ」


 「こんにちも日本のあけぼのが―――、見渡せるのォ」


 艶のある目じりを持つ美男子が、大地を見下ろした。


 彼の名は三内丸山ユウキ―――マンモス学園に通う生徒の一人であり。

 村有数の富豪息子である。

 


 彼の父は、この時代の食料保存に使われる高床式倉庫の建築会社を設立した。

 この時代においてライバルといえるような既存企業は、まだ現れず。

 その長男である彼自身も、父親のゼネコンとしての役割を最前線で指示、指揮しており、邪馬台国内でのシェアは九十九パーセントと無双状態である。



 村周辺のどの山からでも真っ先に見つけ出せる彼の大豪邸は、あまりにも目立ちすぎて悪趣味極まりない。

 景観を損なう、という付近住民のぎゃあぎゃあ叫ぶ非難をものともせず。

 漆を塗りたくったテカテカな屋敷を持っている。


 彼は今、ブラキオザウルスの頭上で胡坐をかいて座っている。

 中生代ジュラ紀より生きのびたごく少数の竜盤類。

 長い首を天に伸ばして闊歩している、その長さは校舎の屋上にも難なく接舷出来るほどである。

 

 実際のところ、彼は毎朝、屋上を入り口とする一握りの生徒である。

 縄子からは、その男子生徒は豆粒にしか見えないのであった。



 「いいよなーあエリート様は。恐竜種での登校が許されていて」


 文次モンジの顔面に黒い影が落ちた。

 うちらは一般生徒向けのスクールマンモスでの集団登校だっていうのにさ―――

 足元を見やれば、毛皮を通り越して縄の塊のような毛におおわれている。


「絡まるから嫌なのよね」


縄子ジョウコが嘆息した。

大地にそびえる、山のような校舎が見えてきた。

大量のマンモスがゆっくりと集まっていく―――!

 



――――――




「ふぅむ」


 今の生徒たちは、こういうのが好きなのか。

 まあ、笑えるといえば笑えはするが……なんだかなあ。

 学園への登校シーンだけでツッコミどころが大量である。

 


「教育上よくないな」


「あぁ、また父さんのそれ。出てる出てる」


 息子が今から顔を出した。

 皿洗いの最中らしく、その手はに皿を持ち、作業中だ。



「すーぐソレだ、教師目線」


「ああもう黙ってれィ……教師目線だよ、上から目線じゃあないんだ……悪いか」


「……悪くはないけど……なんか、アレなんだ」


「おりゃああああ! ランスデス・ギロチン!!」


孫が体当たり(のような凶悪な何か)を背中に仕掛けてきた。


「ぐあああああああああ!」


受け身を考えつつ倒れ込む私。


「違うよォじーじ! この技は相手を浄化するために開発さぇた、群具煮ぐんぐにぃの必殺技なんだよ!」


やや滑舌がかわいい孫。


「えええ……?」


困ったなあ。

浄化されるって、私が? じゃ、じゃあ―――。


「ぎゃー浄化されるううう!」


「うーん……心がこもっていないぃ!やり直しィ~!」


難しいな。

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