第9話 読んだよ、この前聞いたアレ


「キミ、この前言ったあれだけれどね、買ってみたよ。読んでみたよ」


 中庭で彼と会った私は。

 傍から見れば気持ち悪いくらいニコニコと、その感想を話した。

 対する家くんは。


「え、ええええ……!? アレをですか、『マンモス学園』を!? あのしょうもないマンガを!」


 彼は目を見開き、顔つきは幼いなぁと感じた。

 

 やっぱり冗談だったか、オススメされたあのマンガ。

 だがしかし………あれはあれで面白かったぞ。

 もちろん、幼稚ではあったが。

 アレを好む生徒、いや生徒たちの気持ちはわからんでもないが。

 面白いよ―――私が学生の頃だったらもっと心、動かされていたと思うがね。 

 耐えられないほどに。


「まじすかぁ。びっくりした」


 思いのほかうれしそうな彼。

 私がコミックス購入までをするとは思っていなかったのだろう。

 行動力マキシマムっすねーっ、などと呟いて。


「ん………あれ?」


 でも今日月曜日だよね――どうしてなんだい。

 環境係の草むしりは当番制。

 月曜日放課後は、彼の番ではなかった。


 草むしりをする人間が多いに、こしたことはない―――もちろんだ。

 私が若いころはより、良かった気がするよ。

 もっと手伝ってくれる生徒はいた。


「駄目ですよね、やっぱり………」


「いやいや! そうではないさ。ちょっと不思議だなーと感じただけだよ」


 あれだけのマンガ熱を持っている彼が、月曜すなわち『跳躍』の発売日に放課後学校をふらふらとするとは。

 そういえばたまに土曜日に発売はするが。


 瞳がきらめき。クリッとしていた。

 薄暗い中庭の雰囲気も手伝って、暗さも感じる彼であったが。

 ここにいる、結構じゃあないか。


「別にここにいようといいのだ、いくらでも。わたしゃねえ―――家くんの、マンガの話を聞くのは楽しみでね」


 きみと話すのが好きだよ、とまでは言うのをこらえた。


 「え、なんスか、いきなり」


「………ふふ。だが、このこと、知り合い全員には教えたくはないな……なんでだろうね」


「いや、わかりませんけど全然」



 仲間たちだけで作った秘密基地のように思えてきた、この中庭―――。

 それはさておき、さておいて、と。

 彼は語る。

 その語り方はなんとも奥歯にものが挟まったようなものだったが。


「まあ平たく言うと、友達っていうか……奴ら……男子の友達と離れたくないんですよ」


 男子の、を強調して言ってから。

 彼はしかし「いや」と呟き。


 「やっぱり―――なんか追ッつかなくなって」


 ふうむ。

 心情的に色々と交錯しているのかな?

 彼とて通常の男子高校生である。

 十七歳かな?誕生月は知らない。


 悩みの一つや二つあって当然。

 悩みの三つや四つがあって、いずれ私に相談してくれることを心待ちにしていたぞ。


 しばし草むしりの作業を続ける。

 草は、本当に減らないのだ。

 まあ夏を感じるし熱帯地域のような有様ではある―――田舎イナカの土は雑草ばかり生やすと言っていた友人がいる。

 はてさて。


 まあ消極的な生徒もいるだろう、草むしりされた地面には、ムラがあった。

 色々と仕事が甘い。

 土がいいのか―――草はどんどん湧いて来るのだった。

 逞しいことだ。


 私が出会ったマンガ少年。

 彼が地面を睨みつつ呟いていく。


 「コンビニに行くのがまずいかなって、耐えられなくなって。こんな自分になったことが意外というか……」



 なにやら、物騒な話かなと私は身構えた。

 だが彼のコンビニの過ごし方を聞いていくと、そうでもないようだった。





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