第2章 サイドストーリー in中庭

SS 1話 中庭での出会い


 荒野寿あれのひとしは、校舎から砂利道へと足を踏み入れた。

 彼はどこの高等学校にでもいる教員の一人であり、担当するのは音楽の授業。

 普段は教壇に立ったり、生徒が楽器を鳴らすのを眺めたりの日々



 中庭の真ん中に、日差しが降り注いでいる。

 黄緑色の光―――アサガオや、そのほか多くの葉を日光が通り抜けて、土に落ちていく。

 ステンドグラスにしては色が偏っている。

 だが、葉の緑色は一枚ごとに異なるようだった。

 

 じゃりっ、じゃりっと靴を鳴らしながら、荒野は目を細める。

 生徒たちの甲高い声が遠くから聞こえてきた。

 教室は授業中だから、グラウンドからか。

 この校舎の中庭は広い―――少なくとも、他校よりは広いという感覚を持っている。

 他校の敷地に入る機会はある……。

 だが、落ち着いて中庭を見る時間はなかったな、そういえば。



「あぁ……もうか」


 先日綺麗にしたばかりなのに、なかなか盛大に繁茂はんもしている。

 青々と茂った雑草の、根元に近い部分を握り、ずぼっと引き抜く。

 言いながら、内心はそれほど不快でない。

 生来、手が空くと、つい部屋の掃除などやってしまう性質であった。

 


 

 彼がコンビニでマンガ談議をすることはなかった。

 もちろん立ち寄りはするが、そこで何らかの出来事は起こらない。

 古書店に通った過去や、金がなかった時期の休日に図書館のクーラー目当てに行った日々は確かにあったが。



 ★★★




 夏休みが見えてきたこのタイミングだと、かつて訪れた植物園の様相である。

 用事を頭の隅にとどめつつ、中庭を見ていた。

 放っておくわけにもいかない。

 なにしろ、これらの草木が大きく育てば、ひとつひとつ始末するのは私の仕事になるのだ。



 その日も、私は湿気った草花の香りにつつまれながらも中庭を進んで。

 直前まで木陰にいて、見えなかった。

 その男子生徒の後ろを、私は通り抜けた。

 中庭の砂利の擦れる足音だけが響いて。



 そんな日が続いていた。

 生徒も当然ながら、いる。


 彼は清掃活動にいそしむ、普通の男子生徒だった。

 学校の一員であるがゆえに、 学校の一部であるがゆえに。


 そう、それまで私は、他の先生と共同の要件があった。

 用があって。

 しかし夕方までに出来ればいい、などと鷹揚に構えていた。

 足を止めて、しばし時間を忘れ―――口を動かす。



「キミはァ。随分楽しそうに草をむしるんだね」


 彼はすうっと振り向く。

 その指で握った草から、ぱらりと土が落ちた。


「は……ぁ」


 胸元に「家足」と名札をつけた男子生徒。

 彼はおそらく、テノールで唸った。

 さあて、なんと読むのだろう、名前。


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