第35話 長い間やっていると
【K・RARAN】「もちもちさん、今日も可愛いですね!」
私の新作にありがたいコメントをくれる人が、何人かいる。
なお、沢山はいない。
いつものイラスト投稿サイトでの出来事です。
……この文章だと、イラストが可愛いことにならないような気もするけれど、まあいいや。
ペンネームもちもちとしての活動も、思えば長くなってしまいました。
長くなってまいりましたよ。
何年か頑張っていると、私のことを覚えてくれる人が、増えてくれたのです。
色んな描き手に出会い、コンテストでも
ただ、グランプリを獲ったことは―――結局、無くて。
毎回全力を尽くして……何も手に入らないわけではないことに、気づきました。
コンテストに神経をすり減らし、派手に負けて、ふと見ると私のフォロワー数はぐんと増えていた、ということが何度か、ありました。
「全部は……手に入らなかった。 けれど……」
私は、この世界が好きです。
好きになれました。
いや、最初っからそうだったんだ。
美大の試験に、合格は出来た。
高校生の時、意を決して自分で色々調べました―――美術大学への、あれこれを。
知らないことばかりで大変だったけれど……知らない人と会うことになったけれど……大変だったのは昔からですからね、今さら―――。
元から今さら、なんにも変わらない気もします。
毎日って、なんだか、大変です。
最初からずっと同じでした。
ずっと変わりません。
合格、不合格……結果がどちらでも、私はマンガを好きで居続けただろうと思います。
居場所というよりも、自分はこうしていよう……みたいな。
この方が好き、ここが好き。
場所。
狭く感じた世界で。
自分から狭く考えていた世界で。
今は―――たくさんのものがあるように感じます。
marumaruさん、☆みーな☆……よくコメントをくれる人、友達と言える人……本当の私を知っている人。
私の色選びを……なんていうか、見つめてくれた人。
世界って、実は結構広いのだな、と思います。
あとは、あまりにもイージーだなと思います。
難しいと考え、肩をいからせて戦っていた人もいましたけれど。
ガチャ子にも藍沢にもクラスの友達や、あの、仲良くなれなかった人―――斎藤さんにだって―――言いたい。
学校は大事だよね。
大事かもしれないよ?
……私には、そうは思えなかった。
けれど、それ以外―――学校の外にも、素晴らしいものはあって。
居場所があって。
この世界って、学校だけじゃあないんだよ。
そういうものだよ、それだけのことだよ。
この世界に、大切なものは一つじゃあなくて、いくつか見つかることもある―――生きていれば。
いつの間にか、隣でマンガ読んでいたりする。
言いたくても言えなかったこと。
言うまでもない、簡単なこと。
そこまでハッキリとした世界じゃあないけれど。
確かにあるのです。
それほど大したことじゃないけれど。
わかってみれば当たり前のそれに、あの時気づけた私は、幸せな人間でした。
……わかっていない女子も、います。
あんな当たり前のことに。
クラスで、学校の廊下で……見たような気がします。
私はちょっと、運がいいだけの人間だったかもしれません。
私の実力が、高かったからとか……そんなことでは、全然ありません。
私、かわいくなんてない、もっとマシな女子はクラスに居たはず。
性格も。
明るくなくて。
明るくなりたかったけれど―――どうしてもそうなれない人間で。
それだけでした。
私と仲良くしたかった子は―――いたのかな。
沢村さん。普通に明るくてフレンドリーっ子だったひと。私以外のいろんな人にも分け隔てなく接していたなあ。
あまりにも明るくしようとしていた、人。
荒木さん。昔テニス部だった『江垣さん』、と仲良くしたい……と考えていたひと。
斎藤さん。いつも笑えていた私のことを、ただただ、ふざけていると思って、判断して―――それでも、理解しようと……近付いてきたひと。
いろんな女子。
他にも、男子とだって、小さなあれこれはありました。
みんなもしかしたら……いい子だった。
―――悪い子ばかりではなかった。
私のことを見ていた、だけの、それだけのヤジウマみたいなものだったかもしれないけれど。
「ひょっとすれば……」
―――ひょっとすれば、友達に、だってなれた?
その、可能性だけはあった。
あったけれど―――タイミングが何か違ったんだ。
ちょっと、縁がなかったということなのでしょうか。
力が足りなかったのかも。
例えば私に、ガチャ子のような眩しい才能があれば、クラスの誰とでも仲良くなる展開が……?
それとも、ただコンビニの時間が気になってしまったのか。
ああ―――そういう事なのかな。
高校生の時は気づかなかった―――いや、上手く言葉にできなかっただけ、だけれど。
コンビニから離れてしまうのが、あの時間が減るのが、恐ろしくて。
あれを維持したかった。
ええ、そうです。
教室のみんなより、コンビニの方が好きでした。
美術を学ぶ大学に通っておきながらこんなことを言うのもなんですが、私はコンビニでマンガの続きを待っていた頃と、全然変わっていません。
あの時間が愛おしくて―――それだけでもう、いいやって。
充分だよって、なりました。
立ち読みの時間は、さすがに減ったけれど。
教室にいた―――いい子、悪い子。
女子、男子、先生。違うクラスに行った子……。
その誰よりもコンビニを、想うことが多く、なって。
私は選びました。
後悔しないほうを。
ごめんなさい、を言う気はありません。
あれが……なかったら、私にはなにが残るんでしょう?
毎日に、文句をつけているばかりの、偏屈な女子でしかなかったのです。
これでは、嫌われてしまっても仕方がありませんね。
好きなものをがんばって睨み続けた女の末路ですわ。
兎にも角にも、そうやって大学生として過ごしながら、時にはコンビニにいきます。
コンビニに寄ることもあります。
現代人ですからね―――お買い物です。
高校時代に通い詰めたあのコンビニではありません。
高校生活の大半(?)を過ごしたコンビニには、容易に向かえなくなりました。
そうして、マンガ雑誌は買っています。
あれから時がたち、私の大好きな世界にも、並々ならぬ変化が起きました。
私の高校生の頃と、すこしずつ変わっている。
変わっています。
『大スナ』は大人気の末に完結して、近いうち、その作者が別作品を始めるらしいです。
『群具煮』は、新キャラも増えて『八つの槍使い』が登場し、主人公やその仲間と、激闘を繰り広げています。
『土器土器!マンモス学園』は、とうとうアニメ化し、ある種の社会現象のようになっています。小学生の間で大人気であり、男子の視聴者が異様に増えたと話題で。
その反面、保護者とか、なんだか真面目な人たちからは不評なようです。
そう、私が大好きな世界も、少しずつ変わっていきます。
新しく始まったマンガもあれば、終わってしまったマンガもあります。
それらは完全に消え去るわけではなく、私の心に残り、そして部屋の本棚にもちゃんと残っているのです。
私も―――変わったのでしょうか?
私は変わった。
確かに変わった。
たとえば、コンビニでマンガの話をすることはありません。
「次になに描こうか……」
で、ここでも、私は、一番ではないようで。
絵のことでも……まだ。結局、まだまだ道半ば。
――――
スマートフォンが、振動しました。
電話だ、電話ですよ―――さて誰からでしょう。
表示された名前、相手を見る。
【ガチャ子】
画面に表示されたのは、今は遠く離れた場所にいる、友達でした。
「もしもーし!ぼたん?あたしあたし!」
「ガチャ子、久しぶり」
「そうそう!―――ッて、違うわーい!もうガチャ子って名前チェンジねっ!
「うーん………?ぶえぇー………」
気に入ってたんじゃなかったんかい。
それとも気にくわなくなった?
大人に近づいた感じなのでしょうか?
地元に帰ったときは遊ぼう、という約束をしてきて、私もオッケーしました。
友達と一緒に写っている写真が送られて来ました。
楽し気な写真です。
ガチャ子の手には何やら、スマホのゲームプレイ画面が握られています。
『U・S・Aレアをゲットしたぞ!』とコメントが躍っています。
ものすごくレアだということはわかりますがもはや何がなにやらわかりません。
「うひゃー、すごい………そして変わらないな、ガチャ子」
ガチャ子はガチャ子です。
今は私と離れてしまっても、ガチャ子です。
ちなみにウルトラ・スーパー・アストロノートレアの略らしいです。
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