第28話 高校二年生 リセットされる世界



 高校二年生になんとかかんとか進学できた私、私たち。


 本当に、進学って普通にできるんだなぁと、不思議な気持ちだよ。

 朝はコンビニで少しだけマンガを読んでから―――登校。

 二年二組は二階だ。

 初めて、踏み入れる廊下、教室。

 みんながやがや。

 新しい周りの人たち、楽しそうに騒いでいる。



「よっ!江垣えがきさん!これから一年間よろしくね!!」


 と―――喧騒止まない新しい教室で、しっかりと明るく挨拶をしてきた。


 私の前の席の子は初めて話す子だった―――彼女は、満面の笑みを繰り出した。

 沢村さんという、明るくハキハキと話す女子だった。

 そして、私がその子と仲良くなれるかどうかは―――わからなかった。

 笑顔。

 笑顔がまぶしい子は、眩し過ぎて―――私と違う生き物だと、思わせられる。

 苦手。

 苦手なタイプかもしれないね。


 いいヒトなんだろう。

 で、それと同じテンションにならないと、私は悪人にさせられる。

 そうではなかろうか?



 ―――江垣牡丹えがきぼたん、高校二年生。

 二年生になりました。


 この頃には、私という人間がどんな人間なのかわかってきた。

 教室よりも、好きな場所がある。

 好きなマンガもある。

 だからたとえ高校二年生に進学したとしても、教室の変化に、何も感じない―――。

 それで、いい。

 高校生女子として何かが欠けている私は、それでも彼女に返事をする。


「………よろしく、お願いね」


 一応、ぎこちなく笑顔を作れた。

 苦手なタイプというのは、むしろ自分のこと―――それだけなのかもしれない。

 自分が、苦手。

 私は笑うことはあるけれど、笑える時にはタイミングがある。

 初対面の人に突然話しかけられて、上手くやれるかどうか―――。

 また私は、中学生の頃のように―――。

 色んなヒトに出会わないといけないの、話さないといけないのかな?

 次から次へと、闇雲に。



 ………それでいいと、思った。

 私は最近の、牡丹が、もちもちが、いいから。

 好きだから。

 私は今、幸せだから。

 そう―――そうか、幸せなんだ。

 そうか、そうなんだ―――幸せらしい。

 それと、誰かの所為せいに、していないから。

 学校がイヤ、親がイヤ、友達がイヤとか、思わないから―――あまり。



 ただ、ガチャ子が―――いま、四組にいるらしい。

 つまり違うクラスだ―――ああ、なっちゃったよ違うクラス。

 そうだよね、可能性はあるよね。

 あの時と同じ。

 そんな可能性もある……。


 ガチャ子と違うクラスになってしまったことは、私にとって痛かった。

 寂しいことである、はずだった―――けれど、それは考えないようにした。

 ガチャ子は。

 でもガチャ子は。

 あれはどこでだって友達と、楽しく生きていける女子なんだろな―――私がいなくても。

 また会える時もあるだろうし―――食堂とか。



 ―――




 二年生になってから数日が立つ。

 今日も今日とて、コンビニだ。

 多くの高校の近くに存在する、普通のコンビニで私たちは出会う。


 コンビニおとこに私の好きな少女マンガ雑誌のオススメを教えたら、少し戸惑っていた。

 一応初心者にも入りやすいものを選んだつもりだけどね。

 初心者丸出しの表情で、尋ねてきた。


「うーん………週刊じゃないのか、少女マンガは」


 そういえばあまり聞かないなぁ。

 と思った。

 コンビニおとこはそこ、気になるのかな?


「月刊か、季刊があるのは知っているけれど」


「月刊かやっぱり………あれ、きかん。……?とは」


 コンビニおとこは本当にわからないようだった。

 うんうんと唸っている。

 季刊ていうのはね。


「キセツ。ほら、季節の刊と書いて………春、夏、秋………」


「ええ………えぇー!季節ごとにしか出さねえのか!季節って、あの季節?シィズン?春夏秋冬?」


 思いのほか大声を上げた―――びっくりしている彼は『週刊少年』系が基準のようです。


「週刊は私にすればペース早すぎると思うけど―――色んな雑誌がそうだよ、割とあるんだよ―――ほら、懸賞けんしょうのクロスワード雑誌とか」


 おばあちゃんが持ってて、話してくれた。


「クロスワードとかやったことねぇよ―――」


 コンビニおとこは、少し考えてから、イヤ、と意見をひっくり返す。


「あるけど、あれオジサンになってからやるもんじゃないの?」


「そうなのかな」


 そんなルールがあるのだろうか。

 私もよく知らないのだー。


 今日は少し新鮮な思いもした。

 コンビニの外で少し話しをした。

 いいかげん、マンガの話をコンビニでし続けるのもどうかと思ったので、古本屋に行かないかと言った。

 古本屋に―――そう、誘った。

 気づいたら誘っていた。


「うーん………」


「ホントは実物持ってきてみようかと思ったけど、先生に見つかったら面倒だしさ」


 学校のルールを破っていくつもりは、無かった。

 ただ、息抜きは絶対に必要だと思う。

 教室は……息苦しい。

 苦しくなる時がある。


「ま、まあ―――ヒマだけど」


 コンビニのガラス戸を開ける。

 ガラス戸?ガラス戸―――っていうのかな、とにかくガラスドアを開ける。

 コンビニはガラスが多い。


 駐車場を横切り―――二人で歩いていく。

 お日様の下を歩きだすと、なんだか新鮮な気持ちになった。

 そういえばいつも同じ場所でしか、話したことがないということに気づいたのは、コンビニが見えなくなってからだった。

 ここからの会話は。

 コンビニおとこと、コンビニ以外で会話することとなるのだった。


「くふふ………!」


「え、何?なにか面白いことあったかよ」


「いやいや………なんか、やっぱマンガ好きなんだね」


「………まぁ」




 二人でブック・マーべラスに歩いていく。

 ブック・マーベラスは私が最近行った商店街での古本屋とは違う、大きな本屋。

 全国チェーン店のマンガ屋さん―――漫画とか中古のゲームとかを取り扱っているお店。

 全国展開だ―――全国は流石にないかな?


「コンビニ以外は、初めてだな―――」


 私の顔を見ずに、コンビニおとこは言った。


「私はマンガの話するならあそこ以外ないと思うけど―――ブックマ、駄目?そんなの女子力低い?」


「なんで女子力が関係するんだよ………まさかブックマって丸織まるおりのブックマ?」


「うん、あのほら、向かいに100円ショップがあるの、ピンク色の看板の―――」


「あぁーあぁー、わかるわかる………アレかよ………だとすると、ハハハ………、俺の庭だわ」


「俺の庭………」


 庭、と言うほどに。

 どうやら彼は常連らしい。

 通い詰めて、かなり読み込んでいるらしい。

 古本屋が自分の庭とは、コンビニおとこらしい―――と言えばらしいのだが。

 少し考えてみれば予想はつくことだ。

 この、ちょっと郊外に行けばひたすら田んぼから稲な田舎町の、数少ない娯楽だった。

 あんまりお金使わないし。


「ここから近いからよく行ってるぜ」


「………そうなんだ」


 そういえば自転車を引いたりはしていない。

 コンビニおとこは歩きで学校に来ているのかな。

 とか、そんなことをぼんやり思った。


 聞いてほしい。

 私……私ね?

 中学生の時。

 逃げるでもなく、立ち止まるだけでなく、走り続けてたの。

 三年間。

 そしたら、そのあと―――今は。


 高校二年生。

 私の行ける場所は少し広がった―――のだろうか?

 そんな、とある春の日の夕方。

 それでも体は温かかった。

 春は温かいと、感じた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る