第23話 また描ける


 そんなこんなで二月末、一年生の学年末テストがすべて終わった。

 自分なりにあれこれと手を尽くして、解答欄をほぼ全部埋めた。

 埋めましたよ。

 正解率に関しては考えたくないです。


 そして当分テストからは解放、春休みに入ることを話し合うクラスメイト達をよそに、私は考えなければならない案件があった。

 ここからだ。

 テストは終わったけれど、私は終わらない。


 イラストを。

 また―――描ける。

 描こう、もっと―――色々、新しくして。


「腹が減っては戦が出来ぬ―――なのよね」


 私はいつものようにコンビニに訪れた。

 この日は、スイーツ(笑)でも食すかなぁと、思ってのことだった―――

 来たる学年末テストに備え勉強はしているので、何かエネルギー補給がしたいのだった。


「ふんわりバナナクレープ・アルティメット盛りがいいの!アレに反応しないと女子じゃあないよ」


 山崎さんがクラスで言っていたことが思い出された

 山崎さんはクラスのぽっちゃり系代表女子だ。

 甘いものに目がない、というよりも甘いものしか見ていない女子である。


 ―――まず視界に入らないのよね、甘くないものは。


 そんなことを言っていた。

 なんだか強キャラ感がするよ、強キャラしゅうがするよ。


 私は高カロリー食品を湯水のように喰らう彼女の食生活、その武勇伝(?)をいくつか聞いていて―――というか聞きたくなくても聞こえてくる―――それで彼女の健康を心配している。

 甘いものに関する知識量を見れば、彼女の右に出る女はいなかった。

 彼女を見習う、というわけではないが―――。


「テストで頭が疲れた、おやつ食べたい」


 テスト最終日は三限までであり、昼過ぎに下校となった私は、夜まで帰ってこないお母さんたちに見つからずに好き勝手食べられるのだった。

 お昼はお菓子メインという選択肢も、冒険だろうか。



 だがしかし、おやつコーナーにたどり着くまでもなく、私は立ち止まる。

 彼はいた。

 ―――コンビニでマンガ談義していた男が今日は、いた。



「―――やり過ぎた槍修行」


「!―――デリシャス・ランスマイスター」


 挨拶をする。

 挨拶だ(言い切る)。

 あの作品の読者ではないと通じない、挨拶。

 コンビニおとことしか出来ない、挨拶。


「久しぶりだね」


「………うん、久しぶりだな」


「最近熱いよ、群具煮」


「………先週は、見なかった」


 この男が跳躍を見ていない週があるとは、驚きだった。

 というのは私の気持ちで―――彼は普通にテストに集中していたのだろう。

 普通である、それが。


「テスト大変だったね」


「………ああ」


 この男は不機嫌というわけでもなく、いつも通り、私よりは口数が少なかった。

 そして次のようなことを口走ってしまったのは、ただ単にテストのことを忘れたかっただけだと思う。


「―――コンビニおとこさ、少女マンガは?読むよね?」


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