第22話 チョココロネ星人


 テストが迫ると、私はある種の安心感を覚える。

 これはテストが得意という事とは、また違う―――クラスのみんなが、それこそ普段マジメでない子も勉強に向かう傾向があって。

 私を、見なくなるから安心するのだ。



 少し楽しくない話。

 また自虐的な話。

 私のことを―――よく思わない女子も、いる。


 友好的な性格ではない(これは親の遺伝だろう、私は悪くない)、私のことを疎ましく思っている子はいる。

 私が大人しくしている分にはまだいいが、私がガチャ子のような人気のある子とよく話していること。

 それが気に食わないという人たちもいるらしい。

 一人や二人だけれど、確かに、同じクラスにいるのだ。

 ………よくもそこまで。

 流石に、よくもそこまで必死になり、嫌いな部分を見つけることが出来るな、と感心すらするけどさ。


 絵は、関係ない。

 絵を描いていることは、関係ない。

 オマエこんなの描いてるのかよー、とクラスのいじわるな男子にノートを取り上げられただとか、クラスの、色々と派手なグループの女子たちから嫌われたとか、そんな思い出もない。


「………もうちょっと何かあれば、あるいは少女マンガっぽい展開だったのだけれど」


 基本的にお兄ちゃん以外の男子と絡むことが少ない私の人生であった。

 男子と絡まん。

 いやなことすらも、あまりない。

 人生はマンガのようにはならない……これも学んだこと。

 ただ、絵を描いている私のノートを読んだ彼ら彼女らが、無表情でそれを眺めていたことを思い出す。

 あの頃―――笑って見ては、くれなかった。


 今はネット上で仲良しの子たちとグループチャットしているけれど、わたしは現実空間ではそこまで褒められたことはない。

 それがリアルというものなのだろうか。


 実際に絵が上手いね、と言ってくれる子は、藤崎さん―――小学校の頃はいた。

 確かにほめてくれた、絵が上手いね、って言ってくれた。

 けれどその子も、少しずつ友好的ではなくなった。


 私が、その時に一生懸命描いた女の子の、ここの部分が苦労した、というこ

 とをお話したら、まだ三十分しか喋ってないのに、妙な笑みを浮かべ、遠くに駆けていった。

 どういうことだろう、どうしてやらないんだろう。

 好きなことを毎日やっていたら、いずれプロ級になれるのに。

 どうしてこんな簡単なことがわからないんだろう……。


「ぎゃはははは!牡丹ぼたん、あんたと仲良くしたいんだよ、本当は、みんな


 と、笑い飛ばすのがガチャ子。

 ガチャ子は私を馬鹿にするけれど、すごく頻繁に馬鹿にするけれど、いじめたりはしない。

 そういう子です。


 どうして彼女がクラスで人気あるのかがわかる。

 女子からも男子からも好かれる、その理由。

 最近は―――だんだん、少しずつ、いつの間にか、わかる。

 とてもわかるんだ。

 わかるから―――


「ありがとう!蒸しパンあげるね、ガチャ子………?」


「もうええわッ!そのネタは!」


 ばしん、と手をはたかれた。

 ええっ………ダメかな、流石に蒸しパンはしつこかったか。

 蒸しパン星人がガチャ子にウケたから多用しようと思っていたのだけれど。

 流石に毎日蒸しパンは飽きるよね?


「蒸しパン以外のネタも考えるんだよ!チョココロネとか!」


「ちょ、えーとね………ほら、チョココロネ星人………?」


 新しい顔芸をアドリブでしながら、私は考える。

 頬っぺたの位置をずらすんだ。

 頑張れ私。

 コロネ状にねじれをこう―――頬っぺたに生成するんだ。


「………」


 皆私と仲良くしたい?

 だからちょっかい出す人もいるの?

 私の陰口を言う人も、いるの?

 私と仲良くしたいとは、思っている人いるの?

 わかんない、わかんないよ。

 男子の悪口ばっかり言っている女子の気持ちとか、私わかんないし意味がわからない。

 何が面白いのか。


 たとえ、たとえ私の感覚がおかしいのだとしても。

 そうだとしても私には、もうよくわからない。

 私はクラスメイトと、ちゃんと仲良くするのが苦手だし、ひどく、そう―――疲れる。

 ガチャ子のようにみんなの中心に―――誰とでも親しくなれる性質を、私は持っていない。

 勉強が得意でない私は、堂々と高校生でいる資格なんて、無いと思うし。

 でかい顔していない

 勉強よりも好きなことがある私は、もうそんな自分が、いい。


 絵を描いているときの方が―――楽しい。

 そう思います。

 たぶん幼稚園児でもわかる―――と、私は思ってるけど。

 おかしいかな。

 毎日好きなことやっていたら、楽しいに決まっている。

 友達って―――そこまでほしくない。


 マンガも好き。

 マンガは面白い。

 マンガの話は好き。

 とても好き。

 私の教室にいるどんな人間よりも―――面白い。

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