第18話 マンガ談義しているだけではなくなった 3
何故自分に自信を持てない私がコンテストに参加しているのか、正確には参加を思い立ったのか。
………そうか、私。
自分が、自分のことが―――今まではあまり好きじゃあなかったんだ。
自分は正しくない、って思っていた。
マンガが好きな自分を、あまり見せないようにしていた。
恥ずかしかった。
それと、周りの目。
結局のところ、学校の友達や、先生は―――私がマンガ好きなことを、それほど良くは思わない。
そう思っていたんだ。
一人で絵を描き続けているのは恥ずかしい。
恥ずかしいだけじゃあなくて、何か―――クラスのみんなとは違うって。
思ってしまっていたんだ。
でもそんなの浅い考えだったようだ。
勉強も、昔は親に認められるために頑張っていたけれど、高得点を取れた日もあった。
そりゃああったけれど、それで何かが変わったことはなかった。
すくなくとも私はそう思った。
学校には、教室には、私が本当に好きなものはない。
それと私は、良い生徒ではない、良い女の子ではないと思っていた……。
学校っていうのは、私にとって難しい場所だった。
何が正解なのかわからなくて、努力してもうまくいかなくて。
学校の先生も―――答えは教えてくれない。
絵が上手くても、たとえばなにか―――劇的に友達が増えるわけではなくて。
テストでも、何かが手に入ったという感覚は乏しかった。
成績が高得点があっても、友達が認めてくれるわけでも、ついて来てくれるわけでもなくて。
心の支えだった友達も、離れてしまうことはあって。
そんな散々な場所なのに―――行かなければならない、という場所。
学校は、行かないといけない場所だ、毎日。
だから、何か手に入るべきだよ。
そうじゃあなきゃ、おかしいじゃん。
理不尽じゃん。
私の、そんな考えって―――何かおかしいかな。
学校には、行きたくない日があって。
でも行かされる。
全員、行かされる。
行かされる場所だってことは、それ相応の見返りがあるものだよね。
でも、手に入ったものは―――今。
なんだろう。
私は、学校に行って、そして―――何かを手に入れたのかな。
手に入れることが出来なくて、焦る日の方が多い。
いつだったか先生が言った。
―――世界には、飢えた子供たちがいます。
学校に通えない子供たちがいます。
学校がない子供がいます。
ですからいま勉強できる皆さんは本当に幸せなんですよ。
うろ覚えだけれどそんな話だった。
教壇で、先生が神妙な顔で言っていた。
そうかなあ。
私はそれを聞いた時、それは悪い話ではないな、と思った。
学校に行かなくても別に怒られないであろう、そのアフリカの子供たちのことを、非常に羨ましく思ったものだった。
アフリカの飢えた子供たち。
きみたちに、言いたいことがあるよ。
安心しなよ、別に学校に毎日行ったって、幸せになれないよ。
私がそうだから。
家でも―――とても楽しいとは言えなかった。
家族と。
本来、誰よりも仲良くて当然である家族と、誰よりも仲良くなれるのが正しいはずの家族と、上手くやれていない。
劣悪な家庭環境ではいない。
けど、とても仲が良いわけではない。
自分がおかしいのか、私の心が不良品かもしれないと、思う夜もあった。
けれど、コンビニでマンガの話をして―――コンビニおとこと話して。
ああ、これでいいんだと思えるようになった。
これでも、いいのだと。
マンガが好きな、女でいて、いいんだと。
そういう話に混じってこようとする男子だっているのだと。
「コンビニおとこ」
みたいな―――やつもいるし。
私が変われた理由があるのだとすれば。
絶対にあの、少し難しい顔をしながらマンガを読む男子が、原因の一つだ。
表情だけ見ると、仏頂面。
マンガを楽しんでいるんだか楽しんでいないんだか今でもわからない男だけど。
あんな風にマンガの事だけしか考えていないような人が、いることが嬉しかった。
………いや、何か違うけれど。
安心はできるのだった。
学校や家庭を、嫌いだという、煙たがるのとは違う。
ただの反抗期とは違う。
学校や家庭のほかにも素晴らしいものがあると、気づけている自分が嬉しいんだ。
私は、自分が好きなものを、十六歳の時点で見つけているのだ。
「あの男のおかげで、私はますます絵の世界にのめり込んだってわけだね」
これでいい―――マンガは日本を代表する文化だしね、もはや。
これでいい、じゃあ無い、これがいいんだ。
けれど、だからと言って、何の苦労をしないわけなどなく、かなり厳しい場面に差し掛かっていた。
ビビちゃんの加筆が行き詰まりを覚える。
停止した。
停止したし、進み方がわからない。
ビビちゃんはある程度まで可愛くなった。
マンガを模写した日々は、好きなキャラを模倣した日々は、どうやら、全く役に立たないわけじゃあないらしい。
ゼロからやり直さなければならないと思ったことはあるけれど、ゼロから足していくものの中に、今までの経験は表れ、活かされている。
私の画力はマンガによって鍛えられていた。
「
私は呟いていた。
一枚絵だけならば―――私は確かに、ある程度の画力を込めたイラストを完成させることができたのだった。
手前味噌だけれど、ビビちゃんはある程度可愛かった。
ある程度可愛い女の子。
それを私は、描き上げたのだ。
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