第15話 イラストコンテスト 2
コンテストの正式名。
その締め切りは残り一か月ほどになっていた。
イラストコンテストに向けて、ビビちゃんに色を塗る私。
この時間だけが―――私の時間だった。
そう―――そうだ。
描けばよかったんだ。
好きなことを、やっていればよかったんだ。
でも親はそんな私を止めようとしていて。
婆ちゃんは私の味方をしていて。
そんな―――そんなことが起こっている原因が、私にあるような気がして。
悪いことをしたわけじゃあないのに、と。
つい、愚痴っぽくなって。
私はそれから、毎日、ちょっとずつ描き続けた。
イラストコンテストに参加してからは、授業中に描く時間は減った―――。
妙に勉強も集中できた。
その代わり家でペンタブに向かう時は、集中していた。
………ウソです。
たまにスマホゲームとかしながらやっていました。
そのスマホゲームでも以前ひと悶着あって、親とはそれでも喧嘩をしたものだった。
課金はしていないって言っているし、ゲームのことだったらやっていること、お兄ちゃんの方がヤバいし、友達はフツーにやっているしで、色んな悲しさが溢れた。
連絡手段のために買ったのだ、携帯電話は遊び道具じゃあない―――なんて。
そんなことしか言わないおや。
こう説明すると親とは口喧嘩しかしていないような印象だ―――うん。
否定しません。
連絡手段のために購入した携帯電話、それは口論をより激しくするためのツールとして機能してしまいました。
いや。
大声をあげて喧嘩をする段階は過ぎ去った。
ひたすらにギスギスした会話を続けただけだ。
ええい、忌々しい―――ガチャ回そっと。
そうだよ、親と喧嘩するよりもガチャ回していた方がマシじゃん。
ねえガチャ子?
でも、それでも、毎日、自分の部屋でビビちゃんに可愛さを搭載する作業は進んでいた。
つぶらな瞳を、ぷくりと膨らんだくちびるを、揺れる髪を、その髪の隙間から覗く耳を、その耳にピアスなんかしちゃおうかしら、ピアスをつけたら確実に可愛くなるなんていう単純なものでもないから頭を悩ませた。
「コンテストに参加はしている、参加はするけれど―――」
頑張っているけれど。
「まだまだ、これじゃあ―――駄目」
しかし、描きながら、自分の実力の足りなさに落ち込んだ。
ペンタブレットには、私の画力が残酷なほどに表れる。
それは、普段よりも低く感じられた。
ああ、ペンタブレット。
そもそも中学の時にお婆ちゃんに買ってもらったペンタブという時点で、最新型の液タブを持っているネット上のお金持ちの人たちには負けるに決まっている―――。
機材の違い、性能の違い。
ああ、違う、お婆ちゃんを悪く言っているんじゃあないのよ―――お婆ちゃんだけが私の味方なの。
「機材のせいには、しないよ―――描けば上手くなるに決まってるん、だから―――!」
ペンを握る指が痛くなってきた。
心も、削られる―――。
私は、私は昔から絵は好きだったけれど、今回の負荷は今までとは違う。
「どうしたんだろう、ビビちゃん―――あなた、難しいね?」
ビビちゃん、あなた難しいコね。
私は不完全な我が子を眺めて、言う。
「なんで―――今までは、私、絵は上手かったはずなのに、そう思っていたのに」
私は、ふと本棚に視線を写した。
よく描いていた、お気に入りだったシュウくんも、その中にいる。
シュウくんは、もっとさらりと描けた。
そして、しかも楽しかったハズなのに―――。
………あの子は違った。
人気マンガのキャラクターだった―――つまり
すでに描かれている作品を、マンガを模写するのと、イチからキャラクターデザインを構築するのとでは、まるで違う。
シュウくんは格好いいキャラクターで、あのキャラクターのファンはそれこそ日本中に、存在する。
一つの正解と言える。
私は、彼が正解でお気に入りだから、彼をひたすら描いていた―――一時期は。
「―――好きなマンガを、たくさん模写していた」
あれは私の誇るべき努力だと思っていたけれど、私は今までに経験値を積んでいたと思っていたけれど―――。
どうやら、違ったみたい。
今回は、イチから、いやゼロからやり直さなければならない、そんな気分だ。
正解はどこにあるかって?
創り出さなければならない―――私が、コンテスト締め切りの、残り一か月ほどの時間で。
こめかみの辺りに、汗が湧いた気がした。
私は、生半可な気持ちでこのコンテストを始めてしまったのだろうか―――?
―――いや、まだ締め切りまで時間はある、あるのだ。
ビビちゃん、可愛くしてあげるからね。
私はマンガオタクで親とも仲良く出来ない女、友達だってあんまり―――いない仲良く出来ない、卑屈な性格の悪い女かもしれない―――けれど。
あなただけは。
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