第12話 気になる人


 絵を描いてばかりの私ではあるし、それはそれで楽しいのだけれど、ここは学校である。

 学校であった。

 そこには教室があって、廊下があって、体育館や食堂や特別教練があって。

 そんなもろもろ。


 今日も今日とて、私は二限目と三限目の合間に、一階の端にある自販機までガチャ子と歩く。

 なんらかの飲み物を摂取しに行くのだ。

 甘いもの。

 菓子パンまで買う事は流石に少ないけれど。

 にもかくにも、そのために廊下をずんずんと行軍する。

 丁度、十時二十分ごろなのでおやつタイムと私は思っている。

 思っているだけでなく脳内で命名した。


 たまに考える。

 私は本当に高校生なのかと。

 勉強はしているけれど、学業に集中は出来ていない自分がいる。

 する気のない、自分がいる。

 絵ばかり描いていて、ここにいて。


「まあ授業中はあんまり描かないようにしてますけど」


 ………嘘だな。

 うん、嘘だね、描いてるよ。

 あんまし可愛さマシマシのイラストを描いていたら遠目にもわかっちゃうと思うから、手とか描いてるけど。

 手、指。

 奥が深いのよ、手と指は。

 やっぱり描かないとなー。

 でも授業をしてくれる先生に個人的な恨みがあるというほどではないので、絵を描くときは日々罪悪感を感じるのよ。


 ………それもこれも親のせい。

 家で絵ばっか描いていたら絶対何か言われるもん。

 あの人たちがいると、大人にはなりたくないなあって思う。

 大人になって、例えば私なんかでも、結婚したらあんなふうになるのだろうか。

 だとするとなんていうか―――独身で、いたいなあ。


 とか何とか言っても、私には気になる人くらいいる。

 今も教室に。

 その彼はシュウくんに似ている。

 私も女子なのよ。



 保育園にいた頃はたっくんが好きだった。

 小学二年生のころはコーイチくん。

 それから天海あまみくん、高島くん―――中学に入ってからも彼はだんだんと魅力が増していくような気がしていた。

 でもそれ以外にも、例えばマンガのシュウくんに雰囲気が似ているというだけで好きになったヒトは、いた。

 まあ要するに明るくて爽やかで、他の女子からも噂されるような人物だ。

 群具煮ぐんぐにるに似ている奴もいた―――顔もだけど口調が。

 今思えばあいつは色々とあり得なかった。

 面白かったといえば面白かったけれど、頭はおかしいと思いました、まる。

 天海くんとクラスが変わってからは―――松永くんを見ていたっけ。

 ずっと見つめていた。

 そう、私は好きな人がいる。


 まあ女子だし―――男子を好きになることはある。

 そして問題は好きな人が結構多いということだった。

 多いというか、変わるというか。

 一貫したものはない。

 小学校、中学校、高校。

 その都度つど、変わる。

 ―――誰でもいい?

 もしかしたら。





「―――近くにいる、ちょっと見た目がイイ男子なら誰でもいいのかもしれんね」


 私は。

 私という女の子は、そうなのかもしれん。


「ぼたん、なんか言った?」


「いや、現代文のオオキ先生ってさ、背が高いなーって思って」


「ああ―――まあそうだねそういえば。計りたいよね、あのひと」


 百九十あるよネ、あのヒト―――と、ガチャ子は気楽そうに言う。

 ガチャ子の喋り方には、私のようにぶつぶつと呟く感じがなく、明るさがいつも通る。

 声が通る。

 なにかの歌に聞こえなくもないような、楽しそうな声。

 友達が、その性格が明るい―――というのはすごく幸せなことだろう。

 私も楽しいよ。


 ただ。

 ガチャ子は主人公だな。

 性格が明るくて友達が多い、主人公の女の子。

 と思う。

 そして私はそうではない―――、と思ってしまうのよ。

 うーん、マンガ脳。

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