第10話 蒸しパン星人 2


 コンビニさんと呼ばれた私だが、何もあのマンガ読み男とだけ、この場所を訪れるわけではなかった。

 ガチャ子とコンビニ近くに来た。


 場所はコンビニなのだが、今日はコンビニおとことは話さなかった。

 彼は雑誌コーナーにいなかったし、私はガチャ子と一緒に帰ったのだった。

 ガチャ子は普段はバイトなのだがそれも休みらしいのである。

 一緒に新しい飲み物を探す。


「ねぇぼたん~、じゃないや、蒸しパン星人~」


 ガチャ子が私の新型名称、新型ニックネームを呼ぶ。

 あれから数時間が経過をしているがおぼえていやがるぜ、インパクトはあったようだ。

 単なる一発ネタのつもりだったのだが。


「一発ネタにしてはクオリティ高かったみたいだねー。あ、今日帰りの電車、蒸しパンにしようかなー」


「蒸しパン星人~~~、蒸しパン星人先生~~~」


「先生!?」


 がたんごとんと揺れる電車はやることが少ない。

 時間を持て余す。

 おやつタイムくらいはこなせるので買い食いは可能だ。


「帰りの電車用のガチャー買うー」


 ガチャ子がだらだらとした口調のままレジ近くのI-toonsアイトーンズカードを手に取る。


「流石にガチャり過ぎじゃあないかい?」


 ぽつりとそう聞く私は、結構ガチャ子のことが心配だったりする。

 ギャンブル依存症とまでは言わなくても、やはり私からは随分離れた感覚だ。

 まあ私が絵ばっかりかいてる女だって言うのもあるけどね。


「大丈夫よ、実はそこまでやってないのよ、基本、皆がいる前でしか回してないから」


「うええ………?何故そんなことを………」


 ガチャの結果を見せびらかしたいのだろうか?

 流石に金持ち自慢をしたいわけではないとは思っているのだが、思いのほか、ガチャ子は考えていた、悩んでいた。

 刺さったらしい、思いのほか、何かに―――そう、心に?


「いや、うーむ、うーむ?」


 悩んでいるガチャ子を尻目に、私はチョコデニッシュとメロン・オレを手に取る。

 あ、そういえば週刊少年王者も持ってる。


「甘いな!その組み合わせ!」


「ええっ、でもおやつは甘くないと」


「私甘いパンはホットコーヒーじゃないと無理」


「え、ブラック?」


「無糖のほろ苦さと、パンで」


「うがー、オトナ気取りがー」


「私はなんだかさ、周りがやってたから、バイト先の先輩が」


 ガチャ子は紅茶を持ってコンビニから出る。

 私もついて行く。


「あー、社会人さんが多いってこと?」


 アルバイトをしていれば、そりゃあ少しは余裕ができるのだろう金銭的に。


「最初は金遣い粗いな、このヒトたち、って思ってたけどさ―――そういうもんだよネ、働いたら」


 高校生うちらがおかしいのかもしれない、働いてはいないし、それが毎日ふつうだから。

 ガチャ子の交友関係は、私なんかとは違うのだろう、当然のことながら―――。

 寂しいような、悲しいようなものが心にかかった。


「私はぼたんが、羨ましいよ?親が心配してくれてるんじゃん?」


「どこが………、門限モンゲン六時半だよ?」


「まあそれはやべぇな」


 私が友人となかなか遊べず、お小遣いもさして高額ではなく、絵にのめりこむ状況を作ったのは、そもそもが親なのだ。

 同年代の子たちよりも厳しい、いくつかのルール。

 私には絵しかなかった―――その絵すらもあの時は禁止を迫られ、さすがに意味がわからなかった。


「成績だって上がるわけないよ―――昔は頑張りたいと思っていたかもしれないけれど、家にいるだけで疲れるもん、勉強するエネルギーなんてどこからも出てこないよ」


「ははは、いやそこは、頑張ればいいんじゃないの?それに―――」


 バイトはバイトで、やっぱりイヤなこと多いよ、と彼女は言った。

 お金をもらわないと、やっぱりやってらんないよと。

 そう言った彼女は嘘を言っているようには見えなかった。

 ただ―――でも私よりもよほど、活き活きして見えた。


 快活な笑いのガチャ子。

 ガチャ子はこれで、スマートフォンのゲームだけに夢中なゲームヲタクということはなく、そこまで尖がっているわけもなく、明るい子だ。

 友達も多いし、バイトをやっているってことは学外にもいるのでしょうねー、そのさばさばした笑顔。

 ええ、素晴らしいよ。

 こういった、さばさばした笑顔を作れずに親の愚痴しか言えない自分。

 どうしても心には、苛立ちが芽生える―――。

 それを中学校の頃は、抑えきれなかった。


 私だってもうちょっと明るい子になりたかったよ。

 自分があまり、

 いい人間じゃあないって気づいてる。

 人間性でも。

 生徒としても、友達としても、女の子としても。


 でもそれって、やっぱり―――仕方がないことだもの。

 私のせいじゃあ、ないもの。

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