第4話
「.......ヒロにも、紅茶いれるね」
私は手に持っていたカップをテーブルに置いて立ち上がる。
古い椅子がギシ、と鈍い音をたてて、私が手をついてテーブルもギシ、と音をたてた。
鈍い軋む音は、軋んでゆく私達の暮らしのように、渇ききった部屋によく響く。
「うん」
ヒロが首に巻いていたマフラーをほどく。
ネクタイを少し緩めながら歩き、私が座っていた椅子の横に、座る。
ヒロが帰ってきても部屋は暗いまま、電気はつけない。
でも、私は知っている。
この世で一番暗い場所は、きっと人間の黒目の中にある。
ヤカンに残っていたお湯は少なくて、火にかけるとあっという間に湧いた。
葉を新しくポットに入れてお湯を注ぐ。
私がキッチンからポットとカップを持って戻るまで、彼もヒロも、一言も口を開かなかった。
「ヒロ。お砂糖どれにする?」
ヒロの隣に座り、カップに紅茶を注ぎながら聞く。
全部同じ形の白い角砂糖。
でも私は聞く。.......どれにする?
ヒロは「ん」とトングじゃなく指で一つ、角砂糖を摘んでカップに入れた。
彼の目が私とヒロの、色違いのカップを交互に見つめる。
ゆっくりと過ぎる時間。
でも、静けさの中にはいつも何らかの終わりの報せがあるのだということを、私達は理解しなくてはならない。
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