44 CARAT 説得はできない
―◆Road side◆―
「で、なんの話だ?」
「いやそれは僕が聞きたいんだけど」
ナイトから代わって目が覚めると、目の前にルドがいた。懐かしいとは思わない。そもそもオレは妖精らと会う回数が少ない。
昨日まで別の国にいたのに大移動している……なんてことは毎日のように経験していたので驚きはしねーが。いきなりクビにされたはずの城で妖精と目を合わせることになる状況は、流石に困惑する。
「待ってろ……メモを見るから」
何も書いていなかった。
いつも書いてるクセに、こういう大事そうな場面のときに書かないでどうすんだよ!
「きっとどこかの幼馴染が邪魔して書けなかったんじゃないの。戻って誰かに聞いてきなよ。僕も忙しいんだ」
「なんでいつもいつも偉そうなんだよテメーは」
「実際に偉いからね。君こそ少しは騎士として振る舞ってほしいんだけど。まあその話はいい。ルチルでも呼んできなよ」
強引に追い返されるようにして、オレは部屋を出た。ルチル? 誰だそれ。
「ナイト、もう終わっ…………っ!」
出迎えたツインテールは、オレを見た瞬間急に黙る。そして、何も言わずに廊下を駆け出した。毎度のことながら気分が悪りい。
「つーかあいつ、誰だっけ」
いつも逃げ出すツインテール。オレからしたらそういう認識でしかない。
「あ、その口調はナイトさんじゃないっすね? はじめましてロードさん! いやー顔は同じでも割とすぐわかるもんすねー。あ、俺は聖騎士のルチルって言います! ロードさんのことはルドさんから」
「で、これはなんの話に来たんだよ」
「話を聞いてくれない!?」
「テメーが誰とかどーでもいいんだよ! オレが知りたいのは今の状況だけだ」
「この俺に興味ないなんて! 誰だこのイケメンってならないんすか!?」
なるわけねーだろ。なんなんだこいつ。
……クソッ! 話が進まねえ。国王のところに行けばわかるか。
オレはうるさい騎士のことは無視をして、国王のいる部屋に向かう。
「わわわかったっすよ! 話すので待ってくださいー!」
「テメーはオレの嫌いタイプだ。じゃ」
「説得っすよ説得!」
説得?
オレは、仕方なく足を止めて、耳を傾ける。
「ロードさんも聞いてないっすか? ルドさんとメラルさんを連れてきて一緒に戦うだとか!」
「……そーいうことかよ。なら、オレには無理な話だな。口で説得とかそういうのは得意じゃねーし、どうせなら無理やりにでも連れ出して終わらせたい。けど妖精はそうもいかねえ」
「まあまあ! とりあえずもう一度行きましょ! 俺も妖精と話せるんで、苦手でも俺がいればなんとかなりますって! さあ!」
信じる気は一ミリもない言葉だが、断っても永遠と着いてきそうな気配がした。明らかにそっちのほうが面倒だ。
「……」
オレは全身で嫌だと言うオーラを出しながら、重い足取りでルチルとかいう変人に続いて、もう一度部屋に入る。
「ルドさーん、ナイトさんの代わりに話しに来ましたよー!」
「っうるさ」
珍しくルドと同意見だった。
「おいルド、コイツ本当に聖騎士なのかよ。妖精への敬意もねーし騎士らしさの何も感じねえ。なんでこんなヤツ選んだんだよ」
「あ、それブーメランって言うんすよ! 俺たち一緒っすね!」
「珍しくルチルと同意見だよ」
「オレは騎士じゃねえ! 一緒にすんじゃねー!」
クソッ。……うぜえ。
心底関わりたくない気持ちを全面に出しているが、まるで気付いている様子がない。察することができねえ類のバカだ。
「僕から言わせてもらうと二人ともうるさい。早急に帰ってほしいから早く話して」
オレ以上に不機嫌オーラを放っているルドに、さすがのルチルも察し……てねえが、ルチルは能天気な表情で説得の内容を話し出した。
一応、話をまとめる能力はあるらしい。
「と、いうことで、ナイトさんたちの協力をしてほしいって――」
「却下」
コイツ、ルチルが言い終わる前に答えやがった。
「らしいっす! いやー失敗しちゃいましたね」
「は? 説得しに来たんじゃねーのかよ!」
「正直俺、完璧に説得できたと思ってたんで、断られるのは予想外でしたよー! もう万策尽きました!」
あんな自信満々で意気込んどいて諦めが早いとかどんな根性してやがる。
「はあ。ともかく、僕は絶対にここから出る気はないしメラルをここから出す気もない。リスタル王国の王は、僕たちの状況を知ってるはずなのにどうしてこう無理な話を持ち掛けてくるんだろうね。外の世界なんて、メラルにも悪影響でしかない」
ルドがシスコンとか関係ない。
ただルドは、外の世界に出ればメラルがそれこそアリアのようになってしまうのを恐れている。オレだってわかる話だ。
オレ自身、説得に乗り気じゃねえ。もちろん協力すればアリアに勝てるかもしれねえが、穢れるリスクが高すぎる。穢れたアリアと会うことでメラルやルドにどんな影響を与えるかもわからない。
「仮にメラルだけ残して僕がリスタル王国に行ったところで意味がない。リスタル王国の王は、僕らが双子だから提案してきたんだろうね。アリアという穢れた力を手に入れた妖精相手に、完全な純粋でもなく穢れきってもいない中途半端な妖精一人が戦ったところで、負けるのは確定だ」
「うーん……確かにそうっすね……。もし二人で行って負けてしまったら、きっとエメラルド王国も妖精不在の国になってしまいますし、そんなリスク、背負えないのも分かる気が……」
「テメーが説得されそうになってんじゃねーか」
「あはは、確かに!」
「ま、とにかく話がそれだけなら帰ってよ。メラルも寝てるし、あんまうるさくしないでほしいから」
どうりで静かだと思ったら、寝てたのか。
オレは妖精の部屋を見渡す。
室内なのに、そうは思えないほどの様々な植物が部屋中を覆っており、部屋の真ん中には小さな湖のような場所があった。その湖を囲むようにして広がる花畑。そこにすやすやと寝息を立てているメラルがいる。
オレはこの場所がずっと前から嫌いだ。
生まれたのが残酷な場面だったからか、それともこれはナイトが捨てたかった、ナイトの感情か、それとも別の理由があるのか。これほどにまで洗練された世界に、オレは恐怖を感じてる。さっさと立ち去りたかった。
「綺麗っすね。俺、この場所好きです」
オレの思いとは真逆の言葉を、隣の聖騎士はうっとりとした目で言う。
「俺の生きた場所も、綺麗な場所でした。けど、残酷な場所でもありました。この部屋と、この城のようっすね」
「おい、いつまで喋ってやがる。帰るぞ」
「もう、しんみりしていたのにすぐ帰ろうとするんすね! 空気は読むものっすよ!」
「テメーが言うことじゃねー」
オレはルドに背を向け、入ってきたドアの方へ向かう。
ルチルは不服そうにしながらも、オレについていく。
ドアに手をかける直前に、ルドは小さく声を出す。
「僕らには、この部屋は綺麗すぎる。だから僕らは、元に戻らなきゃいけない。この部屋に見合う妖精になるために。自分勝手な妖精から、本当の妖精に戻らないといけない。協力したいけど、今は自分たちの世界を守ることで精一杯なんだよ」
元の自分に戻りたい。
元のメラルに戻ってほしい。
――これ以上自分が、メラルが、変わってしまうのは、怖い。
ルドはそういった意味を込めて言った。オレでもなんとなく理解できるし、きっとルチルにも何かしら伝わったはずだ。
それほどの強い思いを、ルドは意図して伝えた。
ナイト、コイツを説得なんて、できねーだろ。
オレはそうメモに残した。
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