42 CARAT 騎士の理由とツインテール少女
ルチルに案内され、俺たちは国王がいるという部屋の前までやってきた。
「……失礼しまーす!」
ルチルはノックをすると、ドアの向こうに向けて声を届ける。
「驚いた。そういうマナーはちゃんとあるんだ……」
ナイトは小さく感心したように呟く。
確かに、マナーという言葉を知らないチャラ男かと思っていた。自分でもその印象はひどいと思うが、こんな口調だしな……。
「あははー! ベリルさんに何度も言われたんで、身についちゃったんすよー」
ナイトの声が聞こえたらしく、ルチルは無邪気に笑って答える。
なんというか、ノックをして部屋に入るという行為を何度も教える国王が可哀想に思えてきたな……。
ルチルと共に部屋の中に入ると、一人の女性がソファに座っていた。俺たちを待っていたのだろう。
「ベリルさん、お客さんっす!」
「国王様、お客様がいらっしゃいました。このくらいの敬語は使ってほしいが……まあその話は後にして」
ベリル王は俺たちにテーブルを挟んだ向かいのソファに座るよう指示する。
口調は淡々としていて男性っぽい雰囲気を感じるが、マリーニャ王と同じく、この国も女性のようだ。
深緑色の髪が肩まで伸び、外側に跳ねている。前髪は横に流しているが、左目が隠れそうなほど長い。
服装は王が纏うそれだが、王様にしては身だしなみに違和感を感じる。
「初めまして。と、久しぶり。私はエメラルド王国の王、ベリルだ。うちの性悪兵士たちが悪かった。これからは地下の牢獄を、ルチルに見回りさせよう」
「お任せっす!」
「ルチル、なぜお前までソファに座ってるんだ」
俺が座るソファには5人が座っていた。
俺、ナイト、ユーナ、ジュリ、ルチル。
広いソファだが、5人も座ると窮屈で、かなり座りづらい。というか最後に座った俺はソファからはみ出ている。
「え、だめなんすか? じゃあ俺はどこに座ればー」
「はあ。もういい。私の隣に座れ」
そういう国王の言葉に「了解!」と言いながら向かいの席に座り直すルチル。
色々と自由で空気の読めないやつだな……。でも、悪いやつではなさそうだ。そういう雰囲気が、ルチルにはあった。
「新しい聖騎士に疑問を抱いているようだな……」
ベリル王はため息混じりに言う。当の本人はまったく自覚がないようで、頭に「?」マークを浮かべているようだ。
前の聖騎士……ナイトは、ジュリへの熱意は気持ち悪いが、それ以外は至って普通の、いやかなり騎士らしい騎士だったと思う。俺の住む国にそんな職業なんてないから、完全にただのイメージだが。
「多目に見てくれ……というのは難しいか……」
しばらく考え込んだ後、ベリル王は真剣な眼差しで俺たちを見つめ、言う。
「顔がかっこいいからだ」
――は?
なんだか、とてつもなく私情が入り込んだ理由が聞こえてきた気がするが、気のせいだろう。
俺は改めて聞いてみる。
「で、どうしてルチルが選ばれたんだ?」
「だから、顔がかっこいいからと言っているだろう」
…………。
俺たちは何も言えなかった。というか、言葉を見失っていた。
ベリルの隣のルチルを除いて。
「はい! その通りっすね! 俺、顔の良さは自負してるんで、そういわれると納得できます!」
本人の言動もなかなかだ……。
まさか、顔のかっこよさで国王を決めるなんて、この国は本当に大丈夫なのか?
いやでも、実際にルチルは男の俺でもかっこいいと思えるほど整った顔立ちだ。顔立ちだけで言えば、ナイトと同じ雰囲気を感じさせる。美青年という感じではある。こう見ると……性格が残念過ぎる。
「顔以外も騎士らしくしてほしいのだが?」
「時間がかかるっすね! 自信あります! ふふん!」
ドヤ顔で言われても。と、この場にいる誰もが思っていることだろう。
これはあれだな……。ナイト以上にやばい騎士かもしれない。なんというか、なかなか忘れさせてくれないような……なかなか個性が強すぎるキャラをしている。
「ごほん。……ルチルを選んだのはもちろん、騎士としての素質もあるからだ。戦力としては他の騎士の誰よりも強い。ナイトに並ぶくらいだろう」
え? これが、ナイトと同じ戦力……?
なんて、失礼すぎることを思ってしまった。反省はしている。
ナイトも少しだけ疑うような目つきで悩ましげにルチルを見つめていた。第一印象が悪すぎてどうも納得ができん。
「それに……こういう性格だから、ルドにもし・ぶ・し・ぶ、認められている」
「渋々」をものすごく強調されていた。
妖精は穢れのない者としか関わらないんだったな。いうなれば悪い心を持っていない人間というわけで。確かにこいつは全くなさそうだ。純粋無垢というか、一番の適任な気がしてきた。
「これは誤解されたくないのだが、顔がいいから選んだというのは、メラルの希望でもある。決して、決して全く、私の好みではない」
二回言われると怪しく聞こえるのは気のせいだろうか。
メラル……。穢れの影響を受けてしまった妖精、だったか。アリアのように完全な闇に染まったわけではないようだが。危ない状況らしいな。国の象徴でもある妖精が、国の騎士に顔がいいやつを選ぼうとする時点で、おかしい。
「まあつまり、俺はかっこよくて強くて性格がよくて最強ってことっすね!」
なんだこのナルシスト……。しかも今の話をそのまままとめただけだから何も言えない。
「話は変わるが」
ベリル王はルチルの言葉が聞こえなかったかのようにスルーをして、話題を変える。
「この国に来た理由を聞こうか。何か理由があったんだろ?」
ああ、そうだった。ついルチルの話ばかりになってしまったが、元々はこの国に用があって来たことを忘れていた。
「はい。実は……」
ナイトはベリル王に俺たちが行おうとしていることを簡潔に話した。
俺の持っている水晶を使って、アリアを呼び出そうとしていること。戦闘になった際にはルドとメラルの力が必要だということ。
あとは、魔王の噂がないか、悪魔の呪いによる被害はどれくらいか、この国の状況に対しても知ろうとしていることを話す。
「なるほど……。国の状況に関してはある程度まとめて後で資料を作ろう。問題は妖精の力を借りたいという話だが……ナイト、その件はルドたちに直接聞いてほしい」
「そうですか……。はい。わかりました」
ナイトは少しだけ考え込むようにしてから答える。
元騎士としては、ルドとメラルに会うのは気まずさを感じる部分もあるのだろう。何しろ、相手はナイトをクビにしたのだ。ナイトのためを思ってだろうけど。
だからこそ、ナイトは何か感じる部分があるのかもしれないな。
「二人とも、怒ってないかな……」
ナイトがそう呟いたところで、部屋のドアが激しい音を立てて勢いよく開いた。
「がはっ――」
「ナイトぉっ!」
甲高い声と共に、ツインテールの女子がナイトに抱き着いた。ナイトの隣にいた俺は、彼女の体当たりによってソファから追い出された。一歩間違えれば頭を床に叩きつけていた。
「ルビー王女……いやルビー、久しぶりだね」
「えっへへ。うん、ずっと会いたかったんだよ?」
この国の王女。ルビーというらしい。
彼女の突然の登場と、騎士と王女の仲とは思えない関係性を思わせるその距離感に俺は、少しだけ違和感を覚えていた。
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