41 CARAT 人狼聖騎士《ルチル》
冷たい空気と周りを見ても暗闇しかみえない牢獄の中で、俺とナイトはどうするべきかと頭を悩ませていた。
「あははー、僕、城を追放された立場だったこと忘れてたよ」
この牢獄には魔法封じの結界も張られているそうで、隣の牢屋にいるジュリとユーナも魔法が使えなくなっている。もちろん武器も没収されたし、脱出は難しそうだ。
俺だけはあっちの世界に逃げることもできるが……この状況で寝て、ジュリ達を置いていくのもどうかと思う。どうせ明後日には牢で目覚めることになるし、どっちにしろ逃げられないな。
「お前をクビにしたのって妖精のルドや王様だったんだろ? しかもお前のためだったらしいし。会えば解決できそうなものだけどな……」
「うーん……。王様やルド様は絶対に鍵を開けてくれると思うけど、一度は城を燃やした人間だし、恨まれてるのはずっとだからそもそも侵入者のことも、僕たちをここに運んだことも、王様へ報告されてないかもしれない」
さすが、性格に問題があると評判のエメラルド王国だな。
こんな地下で叫んでも声なんか誰にも届きそうにない。何か解決策がないか、考えてみるが、何も思いつかない。ジュリも壁の向こうで頭に湯気がでるほど考えを巡らせているだろう。
「くそっ……どうすれば」
―★―
しばらく俺たちは鉄格子を腕の力でどうにか曲げようとしてみたり、壁を蹴って穴があかないか試してみたり、どこかに隠し通路がないか探してみたりしたが、当然無理だった。冷静になってなにやってるんだ俺たち。
「そうだロミオ、何か刃物になりそうなもの、そっちの世界で探して持ってきてよ!」
「それってありなのか……?」
確かに、カッターやらナイフやらでどうにか鉄格子を切り落とすか。それが俺たちが考える最善の策だな。水晶は手元に持っているし、いけるはずだ。
「じゃあ……そうするか」
俺がベッドに腰をかけたところで、地下に入ってきた入口の方から、足音が聞こえた。かなり軽快な足音というか、スキップでもしてるのかこれ、ってほど足音のリズムがおかしい。
「おおー本当にいた! こんにちはー!」
隣のジュリ達の部屋に向かったのは、金髪の青年だった。歳は俺たちと離れているようには見えない。というか本当にスキップしてたな……。こんな牢獄でスキップしながらやってくる奴がいるか?
「あの恰好……聖騎士?」
ナイトのつぶやきに俺は耳を疑う。が、確かに騎士っぽい恰好ではある。
全身を包む鎧に重そうな剣、そして純白のマント。それと……耳?
よく見ると、彼の頭には犬のような耳がついていた。耳だけじゃない。ふさふさとしていそうな尻尾が後ろからはえている。
「ふふふ、そっか、そういうことか。新聞に書いてあった通り、ルド様と王様はこの状況で人間以外を騎士に……しかも聖騎士に……すごい」
楽しそうに笑うナイトの心情は全く理解できないが、ナイトに次ぐ聖騎士はナイトが笑顔でいれるくらい、安心できる奴らしい。少なくとも見た目は……だけどな。
「えー⁉ それは大変じゃないっすか! 皆には俺から言っておきますよー!」
隣のジュリ達と話しているであろう聖騎士はかなりテンションが高かった。ジュリのことを話すときのナイトと同じくらい、もしくはそれ以上か?
そして、俺たちのところへやってくる。
「こんにちはー! 俺、聖騎士のルチルって言いまーす! よろっ!」
「あ、ああ……」
ハイタッチを促してくるが、鉄格子があるのでもちろんできない。いや、頑張ればできそうだが、そうまでしてこの手を外に向ける気にはならないな……。
こいつ、ナイト以上に苦手なタイプだ。
どう答えればいいのかフリーズしていると、ナイトが口を開く。
「はじめまして、ルチル様。彼はロミオ、僕は」
「もちろん知ってますよ! ナイトさんっすね? 俺、ナイトさんの活躍はよく聞いてましたよ!」
「えっと……聞いてたって誰から……あ、ルド様や国王様から、かな」
「それもありますけど……ああいや、そうっすそうです! 特にルドさんからは『ナイトをクビにするんじゃなかった……』とよく言っていますね! ナイトさんはすごい人っすよ!」
それ、お前よりナイトのほうが良かったって意味じゃないか?
耳が痛くなるほどうるさい声だな……。なんでこの国の王やルドはこんなやつを聖騎士にしたんだ?
「ルチル様、僕たちは国王様とルド様に話があって参りました。ですが途中で門番たちに捕まってしまい……」
「ジュリさんから聞いてますよー! 俺ベリルさんに言ってくるんでちょっとだけ待っててくださーい! あと俺は聖騎士っすけど、様付けはいいす! ナイトさんは先輩ですし!」
ただ挨拶に来ただけのようで、ルチルという聖騎士はあっという間にスキップで闇の中へ消えていった。
「なんだあいつ」
あんなのが聖騎士か? 全く、ちっとも強そうには見えないが。
ところでベリルさんって誰だよ。
「ベリル国王様とルド様のことをさん付けで呼ぶなんて……。それに言葉遣いも騎士らしくはない……」
ナイトは考え込むように独り言を呟いている。ナイトはジュリ関係以外ではザ・騎士な振る舞いだったが、ルチルはそうは思えないな。国王すらさん付けで呼ぶことを許されてるってことだろ。
「何はともあれ、僕たちは助かりそうだよ。国王様に聞きたいことも増えたけど、ね」
「ああ、そうだな」
ここに来た目的。
マリーニャ王に言われたのは、ルドとメラルを連れ出しアリアと戦うための戦力として引き入れること。
あとは、エメラルド王国の状況を見ることだ。救えるものがあるなら救う。悪魔による呪いが多いのはエメラルド王国らしいし、ナイトもそんなエメラルド王国を心配しているみたいだしな……。
―★―
しばらく待っていると、ルチルが戻ってきて鍵を開けてくれた。国王に連れてくるように言われたようだ。そして少しだけ、歩きながらルチルと話す機会ができた。
「皆さんも大変っすねーあんなところに閉じ込められるなんて」
「あはは……本当だよ。僕が抜けたことで少しはよくなってほしかったんだけど、この城の……いや、この国の状況はそんな簡単に変わらないよね」
「大丈夫っすよ! この俺がなんとかして見せます! 俺、自信だけはあるんでっ!」
新しい聖騎士が不安要素にしか見えないのだが。
「ええと……ルチルさんは、ビースト族ですか?」
ジュリの問いかけに、ルチルは両手で片耳と尻尾を触りながら「見ての通り!」と言う。
「正確には狼の部類に入るっすね! 狼とならお話もできますよ~。あ、でもでも、
人間でもあるんで! 人間と狼のハーフです!」
「……狼」
「ナイト、どうかしたのか?」
狼という言葉に少しだけ表情を曇らせたように見えた。が、ナイトは首を横に振って何でもないように歩き出した。ただの気のせいだったのだろうか。
そして、ナイトは何かを思い出したように「あっ」と声を漏らす。
「そういえば、僕たちを見つけたとき。『本当にいた!』って言ってたけど、あれはどういう意味だったの?」
「ああ、たまたま窓の外を見ていたルビーちゃんから、報告を受けたんすよ! 普段は俺と関わろうとしないんすけど、よっぽどナイトさんが心配だったんすね~」
「ああ、なるほど。ルビー王女にはあとで感謝を伝えないとだね」
俺たちのわからない話をナイトとルチルは楽しそうに話していた。案外気が合いそうだな。この二人。
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