40 CARAT エメラルド王国へ

 ―◆Romio side◆―


「どこにあったのか思い出せないってどういうことよ」

「まあまあガーネットさん、落ち着いて……」


 今にも刺し殺してきそうな目つきのガーネットを、ナイトがなだめている間、俺は自分の記憶を必死に探っていた。

 確かに今朝起きた時、ポケットの中にも、近くの机にも、ソファの間にも、どこをさがしてもなかったはずだ。外を見ていても水晶らしきものはどこにもなかった。見つけたら真っ先に「見つけたこと」に気が付くはずだ。探し物はそういうものである。


 なのに俺は、いつの間にか水晶を”持っていた”。


「はは、見つかってよかったじゃねーか! 細かいことは気にするべきじゃないぜ」

「私としては、ちょっと気になります……。でも、そうですよね。今はみつかったことに安心しましょう」

「ブラウンとジュリが言うなら仕方ないわね」

 

 どうしてガーネットは俺(とロード)だけ扱いが酷いんだ。


「ロミオ、どうする? 水晶は見つかったみたいだけど、帰る?」


 水晶が見つかったということはひとまず帰れないという最悪の事態を逃れたことになる。


「そう……だな。エメラルド王国までどうやって行くか聞いておきたい」


 俺が一度寝たらまた一日こいつらを待たせないといけない。

 もし今日中にエメラルド王国にいけるのなら、国についてから寝れば待たせることもない。もちろん、桜木に話したいことは山ほどあるが、自分の都合だけでジュリたちを待ちぼうけさせるわけにもいかない。というか、この時間だと桜木もバイトだろうしな……。


「転移魔法の使用権利があれば、一日で移動できるよ」

「転移魔法の権利……? なんだそれ」


 ナイトの言葉に?が浮かぶ。転移……っていうくらいだから俺の水晶みたいに、別の場所へ移動する魔法なのだろうが、権利というのがよくわからない。


「転移魔法ってすごく便利な魔法でね。転移魔法用の魔石を使えば広い範囲で別の国にワープできるんだ。だけど移動が簡単な分、どんな国にも忍び込めちゃう魔法だから、使用できる人はごく一部に限られてるんだよ」

「ナイトは持ってるのか? その権利」

「王様とか王子王女とか、あとは騎士、兵士、その他もろもろ……国に関わる仕事をしている職業なら、権利は基本持ってるよ。僕は騎士だからもちろん持ってる――と言いたいところだけど、クビになっちゃったから権利は剝奪されてる。ということで行こうか。十日間の旅へ!」

「ああ。わかった――っはあ⁉ そんなにかかるのかよ!」

「もちろん。船で移動するんだから当然だよ?」


 嘘だろ……。

 俺の転移がどういうものかわからないんだ。船で寝て、その場所で目覚めるとしたら、次この世界に来た時は海の中かもしれない。

 船は常に移動中なのに、都合よく船の中で目覚めることができるのだろうか。

 十日間、俺は起き続けなければいけないのか……?

 そもそも、飛行機みたいな空飛ぶ乗り物はないのか……?


「ジュリちゃんなら持ってるんじゃないか?」


 絶望する俺の隣で、ブラウンはジュリの方を見ながら言った。

 ジュリなら持ってるのか? 確かに、マリーニャ王と仲がいいみたいだし、持っていてもおかしくないか。


「え? わ、私ですか? 私は、そもそも職についていないですし……ただ、お城でお世話になっているだけで」


「あーそうか、そういえばそうだったな。すまねえ」


 ブラウンの気まずそうな態度に少しだけ違和感を覚えつつも、希望は一瞬にして消え去った。


「あ、そういえば一つ持ち物の中に使ったことのない魔石がありました。気にしていなかったのですが……この魔石はなんでしょうか?」

「それだよジュリちゃん!」


 ナイトの突然の大声にビクッとするジュリ。

 ジュリが取り出した透明の魔石は淡く緑色に光っていた。俺の持っている水晶も、確か転移の時は緑色に光ったような……。


「さすがジュリちゃん! 君が持っているってことは、王様から転移の権利をもらってるってことだよ! それを使ってエメラルド王国に行こう!」


 本当に持っていた。


「ジュリちゃんはすごいなぁ。きっとマリーニャ王にも信頼されているんだね! 王族でも国関係の職についてなくても魔石をもらえるなんて、さすがのやさしさで有名なマリーニャ王でもなかなかないことだよ! ジュリちゃん万歳!」


 そしてジュリ関係で興奮するナイトは正直うるさい。

 ……ジュリも若干引いてるじゃないか。


 ―★―


「じゃあ、気を付けていくんだぞ!」

「魔王もどき、ユーナに何かあったら容赦しないわよ」


 ブラウンとガーネットに見送られながら、俺とジュリ、ナイト、ユーナは人気のない広場まで移動した。ナイトの提案で、町の人を巻き込まないためにある程度広めの場所を選んだ。


「まず、ここに魔石を置いて……」


 ナイトは魔石を置くと、その周りに、小さな杖を使って地面に何かを書き始めた。地面と言っても、ナイトの描いた文字や図形は緑色に光りながら地面から数センチほど離れ、うっすらと宙に浮いている。不思議な光景だ。

 円の中に入る文字列と図形の組み合わせは、ネットで見る魔方陣に似ていた。

 やがてナイトがすべて書き終わる頃、魔方陣の中の魔石も、魔方陣と同じくらいの高さまで浮いていた。


「これで、魔力を流しながら国の名前を言うんだけど……ジュリちゃんかユーナちゃん、お願いできるかな?」


 俺もナイトも魔力を扱えない。ナイトは二人を交互に見る。


「わ、私が……っ」

「はい」


 ジュリが手を挙げようとしたところで、ユーナはいち早く魔石に触れ、「エメラルド王国へ」と言っていた。行動が早い分、機械的に見えるのその動きは、以前の自分を主張する部分のあったユーナとはまるで違っていた。

 ユーナを、元に戻す。それは俺たちの一つの課題だ。封印石を手に入れて、必ずユーナの呪いを解く。


 ユーナによって魔力が流された魔石は、緑色に強く光る。


「みんな、魔石に近づいて!」


 光に近づき、あまりの眩しさに目を瞑っていると、一瞬だけ体が宙に浮いたような、不思議な浮遊感があった。眩しかった光は次第に弱くなり、ようやく目を開ける。


 エメラルド宝石と色とりどりの宝石に身を包んだ大きな城が、目の前に現れた。

 いや、現れたのは俺らの方か。

 

 俺たちは、エメラルド王国の城の、正門に転移したようだった。


「ワープ先って城なのかよ……」

「もちろん。国関係の仕事をしている人が使う魔石だからね。それに、もし悪者が魔石を使ったとしても、一瞬で捕まるから、国としてはちょうどいい転移場所なんだよ」


 なるほどな……。というか、ワープする場所は決まってるんだな。好きな所に転移できるわけではなさそうだ。


「ナイト・エメラルド!」


 正門なので、武装をした門番らしき人がいるのはなんとなく知っていたが……。

 客人を招くにしては攻撃的だと思うのは、俺だけか?


「んーこれは国王に会うまで牢の中……かな?」

「は?」


 ナイトの言葉にわけも分からずフリーズしていると、俺たちは門番に腕を掴まれた。

 くそ、力が強くて振りほどくことすらできない!


「怪しい侵入者だ! 今すぐ捕らえろ!」


 俺たちは、そのまま暗い牢まで連れていかれたのだった。

 確かに一瞬で捕まったな……。

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