39 CARAT 謎のエルフ
―◆ Romio side◆―
「――ない!」
俺は起きてすぐ、違和感に気が付いた。
いつも異世界で寝た後は現実世界で目覚めるはずなのに、それがなかったのだ。目覚めたのは昨日同様、リスタル王国のブラウン家だった。
くそっ! 今日こそ桜木に本当のことを話すつもりだったのに!
わけがわからぬままとりあえず水晶を取り出そうとしたところ、水晶は消えていた。
「ロミオ、心当たりは?」
同じくらいの時間に起きた同室のナイトが、俺と一緒に部屋中を探し回りながら言う。
俺は頭を抱えながら、首を振る。
「そもそも俺は、水晶を取り出したりしてないんだよ。小さいから、落としても気が付かないことがありそうだが……」
「うーん。このままじゃ、ロミオは帰るに帰れないよね」
帰れない……?
桜木に、何も伝えないままこの世界に居続けるのか?
それは、絶対ダメだ。
……これは、桜木との約束を踏みにじってこっちの世界に来た罰、なのだろうか。
勢いでこの世界に来たものの、俺は敵に捕まるし、ジュリに向かって「助けてくれ」なんて大声で言うし、俺がここに急いで来た意味は、なかったんじゃないか?
そうじゃない、と信じたい。いや、そう信じるしかない。俺は。
「ロミオ、とりあえずみんなに報告しよう。ジュリちゃんは起きてるかな?」
「そうだな。これ以上探しても埒が明かないし」
―★―
「信じられないわ。人からもらったものを無くすなんて、最悪にも程があるわね。魔王もどき」
俺は皆を今日寝ていた部屋に集め、自分が今日もここにいる理由を話すと、第一声はガーネットの淡々とした呆れ声だった。
ストレートにグサッときたが、ガーネットの言う通りだ。反論する言葉は出てこない。
「ロミオくん、これからどうしますか……?」
「すまんジュリ、ナイト、ユーナ。これからエメラルド王国へ行くってときに。もう少し、探して……」
「んー、盗まれたって可能性はないか?」
ブラウンのその視線の先は、ほんの少しだけ開いた外へつながる窓だ。
「盗むって、なんのためにだ?」
「わからねえけどよ、寝る前はあったんだろう? 部屋中どこ探してもないなら、その可能性も考えたほうがいいぜ」
盗む……確かにあの水晶はこの世界にある普通の水晶とは違うみたいだし、高値で売れるかもしれないが、盗むには問題がある。あの水晶は俺と魔王以外、一度触れば電流のような痛みが走ってまともに持てないはずだ。
俺と…………魔王以外?
まさか、魔王が俺の水晶を盗んだのか? いや、いくらなんでも考えすぎだろうか。
「アリア様……ではないでしょうか?」
ジュリが口にした名前は、昨日騒動を起こした妖精の名前だ。
「ぬ、盗まれたとしたら……ですけど、アリア様なら部屋に侵入しても物音を立てずに入れると思うんです。それに……元々はアリア様が作り出したものだとマリーニャ王から聞いています。水晶も触れるはずです」
ジュリの考えは的を射ているように感じた。魔王よりも昨日暴れまくっていたアリアのほうがありそうな話だ。
だとすると、色々とまずい。アリアを通して魔王のもとに水晶が渡ってしまえば、今日魔王は俺の住む世界にいるということになる。
あの殺意の塊のようなやつが……智乃さんや桜木たちに出逢えば何をされるかわからない。
「桜木っ」
まだ、俺はあいつに何も話していない。巻き込みたくないから黙っていたが、こんな状況になるのなら早く話しておけばよかった。
ただ幸いなことに、桜木と俺の家はある程度離れている。たとえ魔王があっちの世界に行ったとしても、そう簡単に会うはずはない…………と思う。
「ロミオくん、大丈夫ですか……?」
「あ、ああ。……もう少し探して、なかったらエメラルド王国へ向かう」
「それで平気なの? あなたが住む世界、どうなるかわからないわよ」
「そもそも魔王に取られていたとしたら、魔王は今日この世界にはいないし水晶もない。探すのも無駄だ」
たとえ魔王があっちの世界に行っていたとしても、俺には帰る手段がない。どっちにしろエメラルド王国には魔王が現れる可能性が高いと言われているし、何よりも俺のせいでエメラルド王国に行くのが先延ばしになってしまうのはよくない気がする。今はこの状況を生かして先に進むしかない。
―★―
「ロミオくん、ありましたか?」
「いや……外も探したけどどこにもなかった」
「うーん。これだけの人数で探してもないなら、盗まれた可能性を考えるべきかもね」
ナイトの言葉に俺は頷いた。俺の管理が悪いのは当然だが、それにしたってこんなに探して、ないはずがない。
これからはこの世界に滞在することになるのだろうか。もし魔王に取られていたのだとしたら、あいつから水晶を取り返すことは容易ではないはずだ。下手をしたら、もう一生帰ることができないなんて可能性だって……。
「魔王もどき、その生気のない真っ青な顔はやめなさい。刺したくなるわ」
「淡々と言わないでくれ。本気なのか冗談なのかわからん……」
「もちろん本気よ」
「待てっ! ナイフを取り出すな!」
俺、魔王じゃなくてガーネットに殺されたりしないよな? 毒付きのナイフで刺されたら死ぬ運命しかないだろ……。
刺されかけたが、ガーネットと話をしたら少し落ち着いた。水晶のことは今は考えてもどうにもならない。エメラルド王国へ向かうことを考えるしかないだろう。
「――何か探し物ですか?」
「っ!」
突然、耳元で声をかけられた。
大人っぽい色気のある声の方を見ると、長い髪の女性がいた。耳が尖っているからエルフだろうか。長く白い髪をなびかせながら、にっこりとほほ笑む。
「少し気になったの。皆さんで随分と必死に探していたようだから、私も力になりたいと思ってね?」
突然現れた女性に言葉を失っていると、ナイトが彼女の間に立ちふさがった。
「大丈夫ですよ。もう捜索は終わりましたので。心配していただきありがとうございます」
「あらら、そうなのね」
なんだ? 少しだけナイトの声色がいつもと違う。
俺が疑問に思っていると、今度は耳元からガーネットの小声が聞こえた。
「何を不思議そうな顔をしてるのよ鈍感魔王もどき。さっきまで全く気配を感じなかったのに急に現れたのよ。明らかに普通のエルフではないわ。何をされるかわからないから、ナイトは遠ざけてようとしてるのよ」
そう言われれば、この人数が誰も気が付かなかった。いつもは妙に感が鋭い騎士であるナイトでさえも。異常な気がしてきた。この人は一体何なんだ……?
「……要らない心配をしてしまったようね。お邪魔したわね」
女性はナイトの横を通り俺の目の前に来て止まる。さっきの話を聞いたせいか、心臓がバクバクとした。
女性は俺の右手を両手で握る。あまりに優しい手つきについ警戒心を緩めそうにっていると、またも耳元で囁かれる。
「これ、このあたりで拾ったのだけど、あなたのじゃないかしら。なんてね」
俺の右手には、水晶が握られていた。
「皆さん、またどこかで会えるといいわね」
俺たちに背を向け歩き出す彼女の透き通るような白く長い髪は、不気味にゆらゆらと揺れていた。
「私はリリー。どうか私のことは忘れてね?」
リリー。
彼女は透明な宝石を見せびらかすように手にして、そう言った。
――俺たちは静かに頷いていた。
―◆ Lily side ◆―
「全く。ミオ君は人使いが荒いんだから。あー、ミオ君なんて言ったら怒られるわね。王様王様」
突然水晶を渡されたと思ったらロミオ君に返せだなんて、どうして悪魔である私がやらなきゃならないのだか。自分の面倒見のよさに溜め息がでるわね。
それにあの水晶、持っている間ずっとビリビリした痛みがあって痛かったわ。
「……まあいいわ。後にあの子は黒の水晶様の器になるのだから、今は洗脳も攻撃もしないでいてあげる」
まあ、元々妖精と同レベルの彼に洗脳なんて、今の私にはできないのだけれど。
面倒見がいい悪魔の私は、兵士として後輩を指導をする役目もある。
マリンのために、早く国へ帰らなくちゃね。
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