33 CARAT 水晶玉とアリア
―◆Romio side◆―
俺とジュリは少しだけ外に残り、ガーネットたちがブラウンの家に向かっていく姿を、みていた。
ジュリが何か言いたげな目線をしていたから、俺は残った。
「ロミオくん、ありがとうございました」
ジュリが深々と頭を下げる。
再び頭を上げたジュリの視線は、俺の目に向けられた。
そして、安心したように胸を撫でおろしながら、「ふぅ」とため息をつく。
別に俺は、ジュリのためにジュリが封印石を使うことを提案したわけじゃないけど。
それでもジュリは、結果的にほっとしたのだろう。
「怖かったんです。一人だけ、世界から取り残されたように感じて……」
「そうか」
俺はそれだけ言う。
ジュリが封印石を使ったのは、間違いではないと思っている。
それでも、ブラウンの娘やユーナの表情をみた後からすると、不安が残るのも当然だ。
二人をもとの状態に戻すためには、魔王から封印石を取り返さなければいけない。魔王が本物の魔王になる前に。
「絶対に封印石を取り返しましょう。そして、目的を達成した先にある、生きる意味を見つけましょう。それが、私たちの交わした約束です」
そうだったな……。
魔王とのぶつかり合いはきっと、通過点にしかならない。
俺たちの目的は、その先にある。
だから、魔王から封印石を取り戻すことに、不安を残している暇ではない。
やるしか、ないんだ。たとえどんなに力の差があったとしても。
今はそれが、生きる意味のひとつになっているのだから。
「ジュリ」
「はい、なんでしょうか……?」
「俺は、ジュリを信じる」
「……はい。信じて、ください。絶対にロミオくんと私自身を納得させるような答えを見つけ出してみせます」
「行くか」
俺とジュリは、皆より少し遅れて、ブラウンの家の中に入った。
ブラウンの家は割と大きい方だと思う。それでも、部屋の数には限りがあるようで、貸してもらえる部屋は二つだった。
俺たちのために二つも部屋を貸してくれるのは、ありがたい。
「ロミオとロードは俺の部屋で寝てくれ。ガーネットさんとユーナちゃんとジュリちゃんはその隣の部屋で寝てくれないか? 広さは十分にあると思うが、何かあったら遠慮なく言ってくれよ。俺はしばらく娘の様子を見てから、リビングで寝る」
「ありがとう。こんな大勢で、申し訳ないわ。魔王もどきと火達磨は外でもいいのよ」
「「おい」」
ガーネットのさりげない言葉を聞き逃すことなく、俺とロードの反応は重なる。
泊まらせてもらう以上、どこで寝てもいいが、お前が外へ行けと言いたくなる。
「ハハハ。 まあ、どちらかはソファで寝てもらう形になってしまうだろうな。女性陣も、ベッドは一つしかないから、相談してくれ」
俺はどうせあっちの世界にいくし、ベッドはロードが使った方がいいだろう。
というか相談しなくとも、ロードならベッドに一直線だろうし。
* * *
「はーつかれたっ」
部屋に入ってすぐ、ロードは大声でそう言いながら、ベッドに横たわった。
ほらな。やっぱり何も考えずベッドを選びやがったこいつ。
「ロード」
「あ?」
「ナイトが魔法を使えないって、本当なのか」
これをロードに聞くのもどうかと思うが、俺は何かが引っ掛かっている。
ナイトと魔力について。
「知らねーよ。けど、俺が目覚めたときはいつも魔力が有り余ってるし、魔法は使ってないんじゃねーの?」
「そうか……。いや、アリアが言ってたんだよ。俺とナイトには魔力を一切感じなかったって」
妖精なら、魔力を察知することはできるのだろうが、なんで魔力があるはずのナイトに、魔力がないと判断したのだろうか。
「はあ? こんなに有り余る魔力が感じないだと? そいつ相当感覚鈍ってるだろ?」
やっぱり、魔力を感じないっていう問題は、アリアの方にあるのだろうか。
ナイトもロードも、同じ体を使っている以上、魔力の量も同じはずだし、ナイトにだけ魔力がないというのもおかしな話か……。
「やっぱり、精神的な何かなんだろうな……」
「ナイトはテメーらが思ってるより、色々と狂ってんだよ。魔法が使えなくなる理由もわかる」
本人は平然としているけれど、兄の死は魔法の使い方を忘れてしまうほどの、大きなショックだったのだろう。
妖精なら魔力を察知する能力もあるかもしれないが、今のアリアは「元」をつけていいくらいの妖精ではない何かだ。明らかに妖精ではない。感覚が鈍ったのもあり得る話だな。
「…………」
俺が考えていると、いつの間にかロードは寝ていた。寝るのが早い。本当に疲れたようだな。
そういえば忘れかけていたが、俺たちは結構命の危険に陥っていたんだったな……。この世界に来てから死にそうな出来事に出会ってばっかりだ。
そう考えると、急に眠気が襲ってくる。
「寝るか」
俺はソファに横たわり、そのまま眠りについた。
明後日からエメラルド王国へ向かうのだろう。本当は皆、明日から動きたいのだろうが、俺のせいで一日ズレるんだよな。
明日も精神力を削りそうな一日になりそうだが、やっぱり、桜木には話さなきゃいけない。
……絶対に殴られるだろうし、絶対にあいつは俺がこの世界に行くのを引き止めるだろうな。
――説得は難しそうだ。
―◆Aria side◆―
「アリア、潜入調査開始!」
おっとおっと、声が大きすぎたかな?
わたしは現在、ブラウンというおじさんの家に窓から潜入して、ロミオくんと、なんだっけ、ナイトくん? の寝る部屋に来ましたー!
なんで高貴な妖精であるわたしが、スパイみたいな危険な行動してるんだろーなあ。
ま、捕まったら魔力でこの家ごと吹っ飛ばしちゃうから、危険の危の字もないけどね!
ほんと、あの人って妖精使いが荒いなー。まあ、そこから気に入ってるんだけどね。
使えると思ったものはすべて使う。
黒く染まった人間のいいところ! いや、悪いところかな?
「ふふふー、それにしてもよく寝てるねー。私の作戦、結果的にいい疲労感を与えたのかも?」
わたしはソファに寝るロミオくんの姿をみる。
わたしには怖い顔を見せていたのに、なんて無防備なんだろー? かわいいなあ。
寝顔は本当に、我らが王様と同じだねー。正直、区別はつかないや。
それにしても、この部屋、ものすごい魔力の気配を感じる。
まあそんなの、今は関係ないからいっか! えっとロミオくんの監視監視っと。
そもそも寝顔を監視しててもやることないんだけどねー。
今のうちに、ロミオくんの持ち物の中に紛れておこうかな?
「……ん?」
魔力の気配がするって思ったけど、ひょっとしてこのロミオくんから?
くんくん。
「あれ……?」
ロミオくんの腰あたりのポケットから、淡く緑色に光っているのがみえる。
そーっと、そーっと。
わたしは光っている場所へゆっくりと近づき、ポケットに手を入れた。
手にした瞬間、多少ピリッとした電流(?)のような痛みがあったけど、特に問題なく手にできることができた。
そして、わたしの顔と同じくらいの大きさの水晶玉がでてきた。
…………ちょっと盛った。水晶玉のほうがすこーしだけ小さい。
「ふーん。結構きれいだねー」
まあ、きれいなものに興味はないんだけどねっ。
でも、こんなに魔力が溜まった水晶、絶対普通の魔石じゃないよ!
何かに使えるかもだし、持って行っちゃお!
「……?」
緑色の光が、強くなっていく。
その光と共に、ロミオくんの身体も発光していく。
え、やばいやばい! これ、もしかしてわたしがつくったやつ⁉
だってこの光り方、転移の魔法じゃない? 昔、転移魔法を得意としてた妖精としては、見慣れた光景だもん。
あー監視は禁止! 無駄に転移される前に、さっさとロミオくんから離れなきゃ!
わたしは、慌てて窓から外へ出る。
って、水晶持ったまま外に出たら意味なくない⁉
「あれ……?」
緑に光っていた水晶玉は、無色透明な何の変哲もないただの水晶玉のように姿を変えた。
今、水晶を持っているわたしには何の変化もない、と。
「なるほどー。これはロミオくんにしか効かないのかな? それとも人間だけに効くとか?」
まさか、ロミオくんが転移の魔石を持っていたなんて。
これはいい情報になったんじゃない?
さっそく伝えちゃおー! 我らが王様にっ。
それにしても、あの部屋の異様な魔力の気配、この水晶じゃなかったみたい。
油断しちゃだめだなー。あのナイトって子には。
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