31 CARAT 取り返すために
部屋に入ると、少女が寝ていた。
……知っていたが、こいつ、この世界の月野……だよな。
小学生モデルをしているポニーテールの金髪少女。顔は彼女にしか見えなかった。
ただ違うところがあるとすれば、髪が短いところだろうか。ブラウンがこまめに切っているのだろう。髪色は綺麗な金髪そのものだった。
「俺の娘、ルーナだ。まだ子供なのに、国を守る剣士になるって夢があってな。正義感が強くて、女の子ながらにかっこいいんだよ」
ブラウンは、自分の娘を誇らしげに語る。
「悪魔に呪われなければ、きっと今も、夢を追い続けているだろうに」
一見気持ちよさそうに寝ているルーナ。
数年間、ずっとこのままだと思うと、ブラウンがどんな気持ちで過ごしてきたのか、想像もできない。
「私が、私たちが、必ず魔王から取り返してきます」
怒りに似た何かを声に出しながら、強く言ったのは、ジュリだ。
望まれて出現した封印石を平然とした顔で奪う魔王。
そんな悪に対して、ジュリは怒りを感じているのだろう。
「危ないから止めたいところだけど……よろしくな、ジュリちゃん」
そして俺たちは、ルーナのいる部屋を出た。
ユーナの持っている封印石について話すため、ブラウンの部屋へ向かう。
―★―
俺たちはブラウンの部屋につくと、それぞれソファやら椅子やらに座った。
「これが封印石……」
俺は、封印石を手に取って見る。
黒い石から白に似た淡い光が漏れているのがわかる。
決して綺麗とは言えないが、どこか神秘的な存在感。
悪魔を封印できるほどの力を持っているんだもんな。
「封印石について聞きたいことがあるんだが……」
もはやこの世界の常識となっている封印石について、聞きたいことは山ほどあった。
「はい。私が答えます。最初に会ったときは細かいことをお話できませんでしたから……」
ジュリは俺が聞いたことをしっかりと丁寧に答えてくれた。
――まず、封印石で悪魔を封印するには、どうするのか。
これは、月の見える夜に儀式をやるらしい。儀式については、今夜実際にやることになるだろう。
――封印石で悪魔を封印した後、その封印石はどこへ行くのか。
次の封印石を求める人の元へ行くらしいが、それまでの空白の期間は、月の光となってさまよっているだとか。意味がわからん。実際のところ、ジュリもよくわからないのだろう。
――一度に複数の悪魔を封印できないのか。
できない。封印石は封印をした後、一度月の光で浄化しなければその姿を保てないと言われているらしい。下手したら封印した悪魔すべてが放たれる可能性も。
ジュリ、ルーナ、ユーナ。この三人に憑いた悪魔を封印することができれば、解決するのにな……。
――封印石を呼び出すことができる条件は?
一度封印石を呼び出せば、儀式を行うまで、次の封印石を呼び出すことはできないらしい。封印石を呼び出したが奪われたガーネットたちは、当然無理だ。
あとは、ごく少数だが魔力を持っていない人。魔力を持ってないのは、ジュリによると俺のような異世界から来た人間くらいだという。あとは、ナイトのことを追求しようと思ったが、やめた。
あまり混乱する質問はするべきじゃない。
俺が聞きたかったのはこのあたりか。
また疑問点があれば聞けばいい。
今は、目の前の封印石が誰のためにあるか、だ。
誰のために使うか。
「わ、私は……ユーナちゃんやルーナちゃんに使ってもらいたい……です。幻覚が見えている私よりも、自分自身を出せないお二人の方がよっぽど不自由だと思うんです」
「ユーナは、自分には使わないのか?」
俺は、ユーナに尋ねてみる。
だが、ユーナの目はただまっすぐ前を向いたまま。
「はい」
返ってきた言葉はそれだけ。
ジュリが大変な状況なのはわかっている。だが、やっぱりユーナの状況の方が、深刻な事態かもしれない。
「ジュリには悪いけど、私はユーナが生み出したものなのだから、ユーナに使ってもらいたいと思ってるわ。ユーナ、封印石を呼び出してから、呪いの力が悪化してるように思うのよ」
「僕は、ユーナちゃんの意思を尊重するべきだと思っているよ。今は軽いジュリちゃんの症状も、時間が立つに連れて悪化する可能性もある思うんだ」
「ユーナちゃんを間近で見ていた俺にとっては、ユーナちゃんの思いに耳を傾ける必要があるおもうな。ジュリちゃんを、相当慕ってたようだしな」
今のところ、二対三。
ガーネットとジュリ。ナイトとブラウン。
と、ユーナは後者か。
あとは俺の意見だけ。
俺にジュリたちの注目が集まる。相変わらず、ユーナは前を向いたままだが。
「俺も、ジュリのために使うべきだと思う」
俺は迷わず答えた。
これはユーナよりジュリが親しいからとか、ユーナがジュリのために封印石を呼び出したからとかではない。
この先、魔王やその仲間たちに出くわすことがあるだろう。本物の魔獣に会うこともあるだろう。
今日みたいに、アリアがジュリを惑わしてくるかもしれない。
戦うことを前提とした上では、目の前の情景を惑わしてくる幻覚の力は厄介になるはずだ。
あくまで合理的に考えた俺の考えだが、話してみると、ジュリは納得してくれたようだった。
「そうですね……私がロミオくんやナイトくんたちに迷惑をかけることになるのは、避けたい、と思います。でも……」
「ジュリ、お前言っただろ、さっき」
俺はジュリのはっきりとした意志のある言葉をしっかり覚えている。
『私が、私たちが、必ず魔王から取り返してきます』
封印石を取り返す。
ジュリはそう言った。だから、そのジュリがいつまでも悪魔の呪いに惑わされている場合ではないのだ。
「その気持ちが本当なら、全力で取り返しに行かないと魔王からは封印石を取り返せない。一度だけ魔王に会った俺でもそう思ってるんだ。ジュリだって悪魔に取り憑かれたまま、魔王と渡り合えると思ってはいないだろ」
ユーナやルーナには悪いと思っている。
実際、ずっと眠ったままやせ細ってしまったルーナを見て、何も思わないわけがない。
前よりも感情無くしてしまったユーナを見て、何も思わないわけがない。
だから、だからこそ、一刻も早く魔王から封印石を取り返さねばならないのだ。
現実か幻覚か、周りの景色を伺いながら前に進む時間があるのなら、一歩でも早く行動したほうがいいに決まっている。
「魔王もどきのくせに理にかなってるじゃない。……そうね。私は少し感情的になってたわ。ユーナのためにもジュリ、あなたが責任を持って儀式を行いなさい。今夜は晴れるはずよ。時間になったら儀式をしましょう」
ガーネットは、早口にそう言い終わると、立ち上がった。
ジュリも立ち上がって深々と頭を下げる。
「ありがとうございます……! 必ず、私は魔王から奪われたすべての封印石を取り返します」
ジュリの決意が固まった。
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